【セラピスト向け】FABの見方|総得点だけではわからない遂行機能の評価・解釈
「MMSEやHDS-Rはそれほど低くないのに、なぜか日常生活ではうまく行動できない」「指示されたことはできるのに、自分で考えて動くことが苦手」——そんな患者さんの評価で手がかりになるのが前頭葉機能・遂行機能です。本記事では、ベッドサイドで簡便に実施できるFAB(Frontal Assessment Battery)について、6つの下位項目の意味と失点パターンの解釈、ADL・IADLとのつなげ方を作業療法士の視点で解説します。「FABはどう評価するのか?」「得点や失点パターンをどう解釈するのか?」といった疑問を、臨床場面と結びつけながら整理していきます。
目次
FABとは?
FAB(Frontal Assessment Battery)は、前頭葉機能・遂行機能を中心とした認知・行動機能をベッドサイドで簡便に評価するスクリーニング検査です。6つの下位項目から構成され、それぞれ0〜3点で評価します。合計18点満点です。
| 項目 | 主にみている機能 | 配点 |
|---|---|---|
| ①類似性 | 概念化・抽象化 | 3点 |
| ②語の流暢性 | 精神的柔軟性・検索能力 | 3点 |
| ③運動系列 | 運動プログラミング | 3点 |
| ④葛藤指示 | 干渉制御・ルール維持 | 3点 |
| ⑤Go/No-Go | 反応抑制 | 3点 |
| ⑥把握行動 | 環境依存性・反応抑制 | 3点 |
| 合計 | 18点 |
下の図で、FAB全体の構成を整理します。
FABの大きな特徴は、単純な記憶検査ではなく、「考える→ルールを保持する→行動を選択する→不要な反応を抑える」という、目的のある行動に必要な機能を短時間で確認できることです。
FABの6項目をどう解釈する?
上の図のように、FABの6項目はそれぞれ異なる認知機能に対応しています。ここからは各項目を詳しくみていきます。
①類似性|概念化・抽象的思考
2つの物に共通する上位概念を答えてもらう課題です。ここで重要なのは、単に物の名前を知っているかではなく、個々の具体的な情報から共通点を抽出し、ひとつの概念としてまとめられるかを評価する点です。
具体的な特徴は答えられても、それらをまとめる上位概念の言葉が出てこない場合があります。抽象化の低下、概念形成の低下、具体的思考への偏り、共通点を抽出する能力の低下などを考えます。
ADL・IADLでは? 日常生活では「状況に応じて共通ルールを見つける」ことが難しくなる可能性があります。例えば、ある場面で教えられた方法を別の場面へ応用できないなど、学習したことの般化が難しいケースでは、この能力との関連も考えてみましょう。
②語の流暢性|精神的柔軟性・検索能力
決められた条件に従って、一定時間内にできるだけ多くの言葉を挙げてもらいます。一見すると「言葉の検査」に見えますが、FABでは、ルールに従って記憶の中から情報を効率よく検索し、次々と切り替えながら出力する能力をみています。
自発性の低下、語検索の低下、処理速度の低下、精神的柔軟性の低下、注意・ワーキングメモリの問題などです。
失語症や語彙力、教育歴などの影響にも注意が必要です。
ADL・IADLでは? 「冷蔵庫にある食材から夕食を考える」「旅行に必要なものを次々と思い出す」「問題が起きたときに複数の解決策を考える」といった、自分から選択肢を生み出す場面で困難がみられることがあります。
③運動系列|運動プログラミング
決められた3つの手の動きを、順番に繰り返してもらう課題です。ここでは単純な上肢運動能力ではなく、複数の動作を一定の順序に並べ、プログラムとして実行・継続できるかをみます。
運動系列の形成困難、動作順序の保持困難、保続、遂行機能低下などを考えます。
麻痺、失行、感覚障害、関節可動域制限などがある場合は、認知機能以外の影響を切り分ける必要があります。
ADLでは? 更衣、調理、入浴など、多くのADLは複数の動作を正しい順序で行う課題です。「一つひとつの動作はできるのに、一連の活動になるとうまくいかない」というケースでは注目したい項目です。
④葛藤指示|干渉制御
検査者の動作に対して、そのまま真似をするのではなく、決められたルールに従って異なる反応をする課題です。ポイントは、目の前の刺激に引っ張られず、頭の中のルールを優先できるかです。
干渉刺激に弱い、ルール保持が難しい、自動的な反応を抑えにくい、注意制御が難しい可能性があります。
ADLでは? 例えば調理中に電話が鳴ったとき、「電話に出る」という刺激に引っ張られて、火を止めることを忘れる。このように、複数の刺激が存在する状況で、本来優先すべき行動を維持できないことにつながる場合があります。
⑤Go/No-Go|反応抑制
特定の刺激では反応し、別の刺激では反応しないという課題です。つまり、「やる」だけでなく「やらない」を選択できるかを評価します。
反応抑制の低下、衝動性、保続、ルールからの逸脱などを考えます。「わかっているのに反応してしまう」というところがポイントです。
ADL・行動面では? 危険と分かっていて立ち上がる、会話中に割り込む、不適切な行動を止められない、指示を待てずに動き始めるなど、行動抑制の問題との関連を考える材料になります。
ただし、FABだけでこれらの行動の原因を断定することはできません。
⑥把握行動|環境依存性
検査者が患者さんの手に刺激を与えたときに、指示されていないにもかかわらず反射的に握ってしまうかなどを確認します。ここでは、外部刺激によって誘発される行動を自分で抑えられるかがポイントになります。
目の前の刺激によって行動が誘発されやすく、自己制御が難しくなっている可能性があります。これは環境依存性を考える手がかりになります。
ADLでは? 目の前にある物を、必要がないのに触る、勝手に使用する、本来の目的とは関係なく操作するなど、環境刺激によって行動が左右されるケースがあります。
FABは「合計点」だけでなく失点パターンを見る
FABを評価するときに重要なのは、「18点中○点だった」で終わらないことです。例えば同じ12点でも、臨床像は大きく異なります。
| 項目 | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 類似性 | 1 | 3 |
| 語の流暢性 | 1 | 3 |
| 運動系列 | 1 | 3 |
| 葛藤指示 | 3 | 1 |
| Go/No-Go | 3 | 1 |
| 把握行動 | 3 | 1 |
ケースAであれば、概念形成や自発的検索、行動プログラミングなどの低下が目立ちます。一方ケースBであれば、知識や概念形成そのものより、干渉制御・抑制制御・環境刺激への依存が問題となっている可能性があります。同じ総得点でも、臨床像は大きく異なるわけです。
ただし、これは下位項目の違いを理解するための模式例であり、この得点パターンのみから障害像を断定することはできません。
FABとADL・IADLをつなげて考える
セラピストにとって重要なのは、FABの点数そのものではなく、「この失点が生活のどこに現れているのか?」を考えることです。下の図に、失点パターンとADL・IADLとの関連を考える例を整理しました。
生活上の問題として関連を考える例
| FAB | 評価する機能 | 生活上の問題として考えられる例 |
|---|---|---|
| 類似性 | 概念化 | 学習した方法を別場面へ応用できない |
| 語の流暢性 | 柔軟性・検索 | 選択肢や解決策を自分から出せない |
| 運動系列 | 行動プログラム | 多段階ADLの順序が乱れる |
| 葛藤指示 | 干渉制御 | 周囲の刺激に影響されやすい |
| Go/No-Go | 抑制 | 危険な行動を止めにくい |
| 把握行動 | 環境依存性 | 目の前の物に行動を誘発される |
例えば調理ができない患者さんでも、「手順を組み立てられない」のか、「途中で別の刺激に注意を奪われる」のか、「一度始めた行動を止められない」のかでは介入方法が異なります。FABの下位項目は、こうした生活障害の背景にある認知プロセスを考える手がかりになります。
MMSE・HDS-Rが比較的保たれていてもFABが低いことがある
ここは臨床で重要なポイントです。MMSEやHDS-RとFABでは、評価している認知機能が同じではありません。下の図で違いを整理します。
MMSEやHDS-Rでは、見当識や記憶などを含む全般的な認知機能を評価します。一方FABでは、概念化、柔軟性、行動プログラミング、干渉制御、反応抑制、環境依存性などに注目します。
そのため、「MMSEは比較的良好なのに、実生活では段取りが悪い」といった患者さんでは、FABなどの遂行機能評価を追加することで問題が見えてくる場合があります。特に、「言われたことはできるが、自分では行動できない」「病棟では問題ないが、自宅生活を想定すると不安がある」といったケースでは、全般的認知機能検査だけで判断しないことが重要です。
FABのカットオフはどう考える?
FABは18点満点ですが、「○点以下なら前頭葉障害」と一律に判断するのは注意が必要です。FABの得点は、対象疾患や年齢、教育歴などの影響を受ける可能性があります。また、研究によってカットオフ値が異なります。
臨床では、FAB低得点=前頭葉障害と単純に結論づけるのではなく、年齢、教育歴、失語症、運動障害、注意障害、全般的認知機能、疲労、検査への理解、脳画像、実際の生活行動などを組み合わせて解釈することが重要です。
FABが低かったら追加したい評価
FABはあくまでスクリーニングです。失点がみられた場合には、必要に応じて他の検査を組み合わせます。
| 検査 | 主にみているもの |
|---|---|
| TMT | 注意の持続・選択・切り替えや処理速度 |
| Stroop Test | 自動的な反応を抑え、必要な反応を選択する能力 |
| WCST | 概念形成やセット転換、保続 |
| 語流暢性課題 | FABの語流暢性で低下があった場合の詳細評価 |
| BADS | 遂行機能障害をより生活場面に近い課題から評価 |
重要なのは、「FABが低かったから前頭葉障害」ではなく、「どの認知プロセスが問題なのか?」を仮説として立て、追加評価につなげることです。
FABを解釈するときの5つのポイント
下の図に、FABを解釈するときの5つのポイントをまとめました。
- 総得点だけを見ない:どの下位項目で失点したのか確認する
- 失点した理由を考える:語流暢性の低下が必ずしも遂行機能障害とは限らない(失語症や処理速度低下など別の要因も考える)
- 実際のADL・IADLと照らし合わせる:病棟や自宅で本当に観察されるのか確認する
- 他の認知機能検査と組み合わせる:MMSE、HDS-R、TMT、Stroop、WCSTなどと組み合わせ、認知機能を多面的に捉える
- 「前頭葉機能障害」と断定しない:検査結果・脳画像・行動観察・ADLを統合して解釈する
FABの結果から考える臨床例
実際にFABをどう活かすか、簡単な例で考えてみます。
MMSE 27点、FAB 11点。病棟ADLは概ね自立しているが、家族から「以前より段取りが悪くなった」との情報があり、退院後の服薬管理や買い物などのIADLに不安がある。
このようなケースでは、まずFABのどの下位項目で失点しているかを確認します。例えば、語の流暢性で低下がみられれば、精神的柔軟性や情報検索、自発的な反応生成などの問題を、運動系列で低下がみられれば、複数の動作を順序立てて実行・維持する機能の問題を考えます。さらに、実際の病棟ADLや退院後に想定されるIADL場面と照らし合わせ、必要に応じてBADSなどの追加評価につなげます。そのうえで、服薬カレンダーや買い物リストなど、本人の困難さに応じた環境調整を検討します。
ここで挙げた点数や経過はあくまで一例であり、実際の解釈は個々の患者さんの背景(年齢・教育歴・既往・生活環境など)を踏まえて行う必要があります。
まとめ
FABは、前頭葉機能・遂行機能を中心とした認知・行動機能を短時間で評価できるスクリーニング検査です。類似性(概念化・抽象化)、語の流暢性(精神的柔軟性・検索)、運動系列(運動プログラミング)、葛藤指示(干渉制御)、Go/No-Go(反応抑制)、把握行動(環境依存性)の6つの下位項目から、患者さんの認知機能や行動上の問題を具体的に捉えることができます。
臨床で大切なのは、「何点だったか」だけではなく「なぜ、その項目で失点したのか」まで考えることです。そして、その結果をADL・IADLと結びつけることで、「なぜこの患者さんは生活場面でうまくいかないのか」を考えるための手がかりになります。
FABは診断のための検査として単独で使用するのではなく、他の神経心理学的検査、脳画像、行動観察、生活場面での評価と組み合わせて、前頭葉機能・遂行機能障害の全体像を丁寧に捉えていきましょう。
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