【作業療法士が解説】TMTの評価・解釈方法|Part A・Bの違い、基準値・カットオフ
目次
TMT(Trail Making Test:線引き検査)とは?
TMTは、紙面上に配置された数字や文字を順番に線で結んでいく神経心理学的検査です。実施が簡便な一方で、注意機能や遂行機能の状態を把握する手がかりが多く得られます。
| 項目 | 課題 | 主にみる機能 |
|---|---|---|
| TMT-A | 数字を順番に結ぶ | 視覚探索、選択性・持続性注意、処理速度、視覚運動速度 |
| TMT-B | 数字と文字を交互に結ぶ | 注意の転換、分配性注意、ワーキングメモリ(作業記憶)、認知的柔軟性、遂行機能 |
TMT-Aで評価する内容
TMT-Aでは基本的に数字を順番に探索して線で結びます。一見単純な課題ですが、「見る→探す→選ぶ→手を動かす→次を探す」という処理を連続して行う必要があり、視覚探索、選択性注意、持続性注意、情報処理速度、視覚運動協応、上肢の運動速度などが関係します。
TMT-Aが遅い場合に考えること
「1→2→3までは進むが、次の数字を見つけるまで時間がかかる」という場合には、視覚探索や処理速度の低下が考えられます。ただし、TMT-Aの遅延だけで「注意障害」と判断することはできません。
TMT-Bで評価する内容
TMT-Bでは、数字と文字など異なる系列を交互に切り替えながら線で結んでいきます。Part Aよりも認知的な負荷が高く、「次はどちらの系列なのか」を保持しながら課題ルールを切り替える能力が必要です。注意の転換、分配性注意、セットシフティング(課題の切り替え)、ワーキングメモリ、認知的柔軟性、遂行機能が特に関係します。
TMT-AとTMT-Bの違い
TMTを解釈するときに最も重要なのが、AとBを比較することです。まずはTMT-AとTMT-Bで求められる機能の全体像を図で確認してみましょう。
上の図はイメージであり、AとBは厳密には完全な包含関係にあるわけではありません。概念的には、TMT-BはTMT-Aで求められる視覚探索や処理速度などに加えて、注意の切り替えや認知的柔軟性など、より高次な認知的コントロールを必要とする課題と捉えると理解しやすくなります。
- TMT-A:視覚探索+処理速度+運動の要素が中心
- TMT-B:Aの要素に加えて、切り替え・保持・認知的柔軟性が求められる
あくまで概念的な整理ですが、TMT-Bの成績にはTMT-Aで必要な能力に加えて高次の認知的コントロールが関わると考えると分かりやすくなります。そのため「Bが遅かった」という結果だけでなく、Aと比較してBがどの程度低下しているのかを見ることが重要です。
TMTの結果は「時間」だけで判断しない
TMTでは完遂時間が代表的な指標ですが、臨床では時間以外にも多くの情報が得られます。
| 観察された行動 | 考えられる要因 |
|---|---|
| 探索に時間がかかる(視線が紙面上を行き来する) | 視覚探索・選択性注意の問題 |
| 途中で手が止まる(「次は何でしたっけ?」) | ワーキングメモリ、持続性注意、処理速度 |
| 数字だけを続けてしまう(1→A→2→Bのところを1→A→2→3) | セットシフティング、注意転換、ルール保持 |
| 間違いに気づかない(指摘されるまで修正できない) | セルフモニタリング、遂行機能 |
| 何度もルールを確認する(「次は文字ですよね?」) | ワーキングメモリ、課題ルール保持の弱さ |
このように「何秒だったか」+「どのように課題を遂行したか」を見ることが重要です。
評価の流れとTMT結果を解釈する5つのポイント
- TMT-A・TMT-Bを実施する
- 完遂時間を記録する
- エラーや行動特徴(停止・確認・自己修正の有無など)を観察する
- 年齢別の標準値と比較する
- TMT-AとTMT-Bを比較する(差分・比率も参考にする)
- 他の認知機能検査の結果と統合する
- ADL・IADLの困りごとと照合する
- 医師・看護師・言語聴覚士など多職種へ結果を共有する
この流れを踏まえたうえで、結果を解釈する際の5つのポイントを個別に見ていきます。まずは5つのポイントの全体像を図で押さえておきましょう。
上の図の5つの視点を、一つずつ詳しく見ていきます。
① 年齢を考慮する
TMTは年齢の影響を受けます。「○秒以上なら異常」という単一のカットオフだけで判断するのではなく、使用しているTMTの標準値や年齢別基準と比較する必要があります。特に高齢者では若年者より完遂時間が長くなるため注意が必要です。
② Part AとPart Bを比較する
AもBも遅い場合には、全般的な処理速度、視覚探索、運動速度などの影響を考えます。一方、Aは比較的良好なのにBだけ大きく遅い場合には、注意転換や認知的柔軟性、遂行機能への負荷によってパフォーマンスが低下している可能性があります。
③ B−A(差分)を見る
TMT-BからTMT-Aを引いた差分を参考にする方法があります。例えばA:50秒、B:150秒なら、B−A=100秒です。Part Aに含まれる視覚探索や運動速度などの影響をある程度考慮し、Bで追加される認知的負荷を考えるための補助指標になります。ただし、B−Aだけで遂行機能障害を診断するものではありません。
④ B/A比を見る
もう一つ参考になるのがTMT-B÷TMT-Aです。例えばA:50秒、B:150秒なら、B/A=3.0となります。単純な運動速度や処理速度の影響を考慮しながら、Part Bでどれだけ時間が増えたかを見る方法です。B−AやB/Aなどの派生指標も研究で使用されていますが、A・Bそれぞれの完遂時間と合わせて解釈することが重要です。ただし、B−AやB/AがTMT-A・Bそれぞれの完遂時間より常に優れた指標というわけではありません。あくまでA・Bの完遂時間やエラー内容と合わせて解釈する補助指標として用います。
⑤ エラーの内容を見る
同じ120秒でも、ゆっくりだがノーミスで完遂した120秒と、何度もルールを間違えながら完遂した120秒では意味が異なります。臨床では、誤反応数、自己修正できたか、指摘が必要だったか、どこで停止したか、探索方法、ルールを保持できていたかなどを記録しておくと、より詳しく認知機能を推測できます。
TMTの正常値は何秒?年齢別参考値とカットオフの考え方
TMTを実施すると「何秒以上なら異常なのか」という点が気になるところですが、TMTはすべての対象者に共通する単一のカットオフ値で正常・異常を判断する検査ではありません。特に完遂時間は年齢、教育歴、全般的な認知機能、運動機能、視覚機能、使用するTMTの版・実施方法などの影響を受けるため、基本的には使用している検査の年齢別標準値と比較して解釈することが重要です。
TMT-Jの年齢別所要時間
日本高次脳機能障害学会が作成したTrail Making Test日本版(TMT-J)は、20〜89歳を対象として標準化されています。厚生労働省の資料では、健常者の平均的な所要時間として以下の値が示されています。
| 年齢 | Part A | Part B |
|---|---|---|
| 20代 | 約29秒 | 約42秒 |
| 30代 | 約29秒 | 約45秒 |
| 40代 | 約31秒 | 約49秒 |
| 50代 | 約34秒 | 約60秒 |
| 60代 | 約35秒 | 約62秒 |
| 70代 | 約46秒 | 約89秒 |
| 80代 | 約51秒 | 約104秒 |
※上記は正常・異常を分けるカットオフ値ではなく、年齢別の所要時間を把握するための参考値です。実際の判定では、使用するTMT-Jのマニュアル・標準値に基づいて解釈してください。
このデータを見ると、特にPart Bでは加齢に伴って所要時間が延長する傾向があることが分かります。「TMT-Bが100秒だった」という結果でも、30代と80代では意味が異なるため、「100秒を超えたから異常」といった一律の判断は適切ではありません。
高齢者ではさらに慎重に解釈する
日本の都市部に居住する地域在住高齢者を対象とした研究では、制限時間内に完遂した参加者のTMT-Aの中央値は46秒(平均52.7秒)、TMT-Bの中央値は126.5秒(平均137.4秒)でした。また、有効なTMT-Bデータが得られた1,917人のうち、制限時間300秒以内に完遂できた割合は82.6%でした。さらに、完遂時間には年齢だけでなく、教育歴やMMSE-Jの得点も関連していました。なお、この研究は主に70〜80歳前後の地域在住高齢者を対象としたデータであり、全年齢に適用できる基準値ではありません。この結果からも、高齢者のTMTを解釈する際には、若年者と同じ時間基準をそのまま当てはめるのではなく、年齢や教育歴、全般的な認知機能などの背景因子を考慮する必要があります。
「カットオフ」は目的によって変わる
TMTのカットオフ値を考えるうえでもう一つ重要なのが、「何を判別するためのカットオフなのか」という点です。参考として、健常者とMCI(軽度認知障害)の識別能を検討した一研究では、TMT-A 35.70秒、TMT-B 73.55秒がROC解析によるカットオフ値として算出されています。ただし、AUCはTMT-Aで0.513、TMT-Bで0.630であり、特にTMT-Bでは感度90.6%に対して特異度37.3%でした。そのため、これらの値を一般的な「正常・異常」の境界として用いることはできません。
臨床では「基準値+行動」を見る
TMTの結果は、①年齢別標準値との比較、②TMT-AとBの差、③エラー・行動特徴、④ADL・IADL、⑤他の認知機能検査、を組み合わせて解釈することが重要です。例えば「70代・TMT-B 120秒」という結果だけを見て「異常」と判断するのではなく、同年代の標準値と比べてどうか、TMT-Aはどうだったか、途中でルールを間違えたか、自己修正できたか、実生活でも切り替えや二重課題で困っているか、まで確認します。
TMTの遅延・エラーパターン別チェック表
あくまで「可能性を考えるためのパターン」であり、TMTだけで障害機序を断定することはできません。遅延・エラーのしかたと考えられる認知機能の対応を、まずは図で確認してみましょう。
上の図のパターンを、要因ごとに一覧表として整理すると以下のようになります。
| パターン | 考えられる要因 |
|---|---|
| Aは正常・Bは遅延 | 注意転換、認知的柔軟性、遂行機能 |
| A・Bともに遅延 | 処理速度、視覚探索、全般的注意機能など |
| Aが特に遅い | 視覚探索、運動速度、視空間機能なども確認 |
| Bでエラーが多い | セットシフティング、ルール保持、遂行機能 |
| 探索で頻繁に停止する | 視覚探索、注意、処理速度 |
| 誤りに気づかない | セルフモニタリング、遂行機能 |
| 左右どちらかを探索しにくい | 半側空間無視(USN)・視野障害などを確認 |
TMTとADL・IADLの関連
セラピストにとって重要なのは、TMTの結果を生活場面に落とし込むことです。TMT-A・TMT-Bの低下とADL・IADLの関連を図でイメージしてみましょう。
上の図のように、TMT-AとTMT-Bのどちらで低下がみられるかを手がかりに、関連する認知機能を踏まえて、実生活でどのような困りごとが生じているかを確認していきます。
スーパーで商品を探すのに時間がかかる/必要な物を棚から見つけにくい/書類から必要な情報を探すのが遅い/多くの情報から目的物を見つけにくい
料理をしながら別の作業をすると混乱する/電話対応後に元の仕事へ戻れない/複数の家事を並行すると抜けが出る/買い物中に予定変更が入ると混乱する/会話しながら作業するとミスが増える
特にIADLや復職場面では、「一つのことはできるが、複数の情報を扱うとミスが増える」という問題が表面化することがあります。
TMTが遅い=注意障害とは限らない
TMTを解釈するときに非常に重要なポイントです。TMTは注意機能だけを純粋に測定している検査ではありません。
例えば右上肢麻痺のある右利き患者が非利き手でTMTを実施すれば、認知機能とは別に運動速度の影響で完遂時間が延長する可能性があります。したがって「TMTが遅い→注意障害」ではなく「なぜTMTが遅くなったのか」を考えることが評価になります。
他の検査と組み合わせて評価する
TMTだけで注意機能・遂行機能のすべてを評価することはできません。目的に応じて、CAT(標準注意検査法)、SDMT(符号数字モダリティ検査)、Stroop Test(ストループテスト)、FAB(前頭葉機能検査)、BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)、MMSE、HDS-R、ROCFT(レイの複雑図形検査)などを組み合わせます。
振り返りポイント/まとめ
- AとBのどちらが遅いか
- どこで止まったか(探索かルール保持か)
- どんな間違いをしたか
- 運動・視覚機能の影響はないか
- ADL・IADLで同じ問題が起きていないか
TMTは、注意機能や遂行機能を簡便に評価できる代表的な神経心理学的検査です。特に重要なのは、TMT-Aでは視覚探索や処理速度などが大きく関与し、TMT-Bではそれらに加えて、注意転換や認知的柔軟性、遂行機能などへの認知的負荷がより大きくなる、という違いを理解することです。そして完遂時間だけでなく、「どこで止まったか」「どんな間違いをしたか」「AとBで何が変わったか」「生活のどこに同じ問題が現れているか」まで見ることで、TMTは単なる「○秒だった」という検査から、リハビリにつながる評価になります。
TMTの結果だけで「注意障害」「遂行機能障害」と決めつけるのではなく、運動機能や視覚機能、他の神経心理学的検査、実際のADL・IADLを組み合わせて解釈しましょう。年齢のせいと決めつけず、気になる結果が見られた場合は専門職への相談を検討してください。
Suzuki H, Sakuma N, Kobayashi M, et al. Normative Data of the Trail Making Test Among Urban Community-Dwelling Older Adults in Japan. Front Aging Neurosci. 2022;14:832158. doi:10.3389/fnagi.2022.832158.
Tamaru Y, Sumino H, Matsugi A. Usefulness of the Cognitive Composition Test as an Early Discriminator of Mild Cognitive Impairment. J Clin Med. 2023;12(3):1203. doi:10.3390/jcm12031203.
本記事は上記資料・文献などを参考にした一般的な解説です。TMTの結果は、年齢、教育歴、運動・視覚機能、実施条件などの影響を受けるため、単一の数値のみで正常・異常を判断することはできません。実際の評価では、使用する検査のマニュアルや標準値を確認し、他の検査所見や臨床情報と合わせて総合的に解釈してください。
よくある質問(FAQ)
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