【セラピスト向け】肩関節屈曲のROM制限|制限因子と評価のポイント

評価・臨床アセスメント

肩関節屈曲のROM制限は臨床で非常によく遭遇しますが、「屈曲120°だから硬い」と単純に判断することはできません。肩の屈曲は肩甲上腕関節だけでなく肩甲胸郭関節や胸郭・脊柱の協調で成立しており、どの組織がどこまで角度を作っているかを切り分ける視点が必要です。この記事では、肩関節屈曲のROM制限について、制限因子・自動他動の比較・肩甲骨代償の評価方法をセラピスト向けに整理します。肩関節屈曲ROM制限の原因は何か、自動ROMと他動ROMの差は何を意味するのか、肩甲骨をどう評価すればよいのか——という疑問に沿って解説します。

肩関節屈曲は肩甲上腕関節だけの運動ではない

上肢を頭上まで挙上するためには、肩甲上腕関節の運動だけでなく、肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋や鎖骨運動などが必要になります。古典的には、肩甲上腕関節が約120°、肩甲胸郭関節(肩甲骨と胸郭の間の動き)が約60°という「2:1」の肩甲上腕リズム(肩甲骨と上腕骨が協調して動く際のおおよその比率)が紹介されることがあります。

ただし現在では、肩甲上腕リズムは一定の比率ではなく、挙上角度や個人によって変化することが分かっています。そのため臨床では「2:1から外れている=異常」と判断するのではなく、肩甲骨がどのタイミングで動いているか、左右差があるか、過剰な代償がないか、肩甲骨の動きを徒手的にコントロールするとROMがどう変わるかを見る方が実用的です。

臨床ではこう考える 近年のシステマティックレビューでも、健常者の肩甲骨運動には大きな個人差があることが報告されており、肩甲上腕リズムを固定された比率として捉えることには注意が必要とされています。数値そのものより、「左右差」や「代償の程度」を相対的に評価する視点が実用的です。

肩関節屈曲の主な制限因子

肩関節屈曲が制限される原因として、臨床では主に以下のような組織・機能が挙げられます。全体像は下の図のように整理できます。

肩関節屈曲のROM制限因子の全体マップ
肩関節屈曲のROM制限因子 全体マップ
制限因子臨床での特徴
関節包(関節を包む袋状の組織)他動ROMも制限されやすい
広背筋骨盤・腰椎・胸郭の代償が出やすい
大円筋外旋を伴わせると制限が目立つことがある
大胸筋特に胸肋部の短縮で挙上を妨げることがある
上腕三頭筋長頭肘屈曲位で肩屈曲すると伸張される
小胸筋肩甲骨後傾・上方回旋を間接的に妨げる
肩甲胸郭機能肩甲骨上方回旋・後傾不足
胸椎・胸郭円背などで頭上挙上が困難になる
疼痛自動ROMを中心に制限する
腱板・三角筋機能自動ROMと他動ROMに差が生じる

① 関節包による屈曲制限

肩関節周囲炎などでは関節包の線維化・拘縮によって、他動ROMを含めて可動域が制限されます。特に挙上では下方〜後下方を含む関節包の伸張性が必要になりますが、「屈曲制限=後方関節包が硬い」と単純に決めつけないことが重要です。外旋・内旋・外転ROM、end feel(他動可動域の最終域で感じる抵抗感)、肩甲骨を徒手的に制御した条件での挙上などと合わせて評価します。

関節包性を疑いやすい所見 自動ROM・他動ROMともに制限がある/明確なend feelがある/肩甲骨の動きを徒手的にコントロールすると屈曲がさらに制限される/外旋など他方向にもROM制限がある/肩甲骨が早期から過剰に代償する、といった所見が重なる場合です。

② 広背筋の短縮

広背筋は上腕骨小結節稜付近に停止し、肩関節伸展・内転・内旋に作用するため、肩関節を屈曲すると伸張されます。短縮している場合、上肢を挙上すると腰椎前弯・骨盤前傾・肋骨の挙上・体幹伸展などで可動域を補うことがあります。

評価のポイント 背臥位で肩を屈曲し、腰椎・肋骨が浮いてこないかを観察します。一見180°近く挙がっていても、腰椎伸展や肋骨挙上などの代償が大きい場合は、肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節そのものの可動性を過大評価する可能性があります。

③ 大円筋の短縮

大円筋も肩関節伸展・内転・内旋に作用するため屈曲時には伸張され、特に屈曲+外旋方向へ誘導したときに伸張されやすくなります。広背筋と大円筋は作用が似ているため、臨床で完全に分離して評価することは簡単ではありません。肩甲骨の動きを徒手的にコントロールする、上腕骨の回旋角度を変える、体幹代償を抑えるなど、条件を変えながらROMを見ることが重要です。

④ 大胸筋の短縮

大胸筋の短縮も、上腕骨の回旋角度や挙上方向によっては屈曲最終域に影響する可能性があります。特に胸肋部の短縮や胸郭・肩甲骨の前方化を伴う場合には、挙上動作全体への影響を確認します。大胸筋は線維によって作用が異なり、鎖骨部は肩屈曲にも関与するため、「大胸筋短縮=肩屈曲制限」と単純化しないことが重要です。

⑤ 上腕三頭筋長頭

見落としやすいのが上腕三頭筋長頭です。肩甲骨の関節下結節から起始し、肩関節と肘関節をまたぐ二関節筋であるため、肩関節屈曲+肘関節屈曲で強く伸張されます。

評価のポイント 肘伸展位では比較的挙がるのに、肘を曲げた状態では屈曲が低下する場合、上腕三頭筋長頭の伸張性が影響している可能性があります。条件を変えることで制限因子を推測できる好例です。これは標準的な肩関節ROM測定とは別に、上腕三頭筋長頭などの多関節筋の影響をみる追加評価として行います。

⑥ 小胸筋と肩甲骨後傾

小胸筋は上腕骨には付着していないため、肩関節屈曲を直接制限する筋ではありません。しかし短縮によって肩甲骨が前傾・内旋方向へ偏ると、挙上時に必要な肩甲骨後傾や上方回旋が十分に起こりにくくなる可能性があります。「肩甲上腕関節はそこまで硬くないのに頭上まで挙がらない」という症例では、肩甲胸郭関節の運動も確認します。

⑦ 肩甲骨上方回旋・後傾の不足

肩甲骨上方回旋・後傾
肩甲骨上方回旋・後傾

上肢挙上に伴い、肩甲骨は主に上方回旋・後傾し、挙上角度が大きくなると外旋方向へ動く傾向もみられます。これらの運動には前鋸筋・僧帽筋上部線維・僧帽筋下部線維などが関与します。ただし「肩甲骨の動きが一般的なパターンと違う=原因」とは限りません。肩痛患者に肩甲骨運動の変化がみられることはありますが、健常者にも大きな個人差があります。

臨床でのとらえ方 肩甲骨は正常・異常と二分するより、「肩甲骨を補助したときに痛みやROMが変化するか」を見る方が臨床的には有用です。

⑧ 胸椎・胸郭の影響

頭上まで上肢を挙上するためには、肩関節だけでなく胸郭・胸椎の運動も関与します。円背が強い症例では胸椎伸展や肩甲骨後傾が出にくく、最終域の挙上が難しくなることがあります。特に高齢者では、「肩が硬い」のではなく、胸郭を含めた上半身全体で挙上しにくくなっているケースもあります。

自動ROMと他動ROMを比較する

屈曲制限を見たら、まず自動ROMと他動ROMを比較します。

自動ROM<他動ROM の場合 他動では挙がるのに自分では挙げられない場合は、疼痛・三角筋機能低下・腱板機能低下・神経学的問題・運動制御・恐怖や防御性収縮などを考えます。特に腱板機能が低下すると、上腕骨頭を安定させながら挙上することが難しくなります。
自動ROM≒他動ROM の場合 自動・他動ROMがともに制限される場合は、関節包や筋・軟部組織などによる可動性低下を考えます。一方、疼痛や防御性収縮によって他動ROMまで制限されることもあるため、end feelや疼痛の出現時期、他方向ROMなどと合わせて判断します。

肩甲骨の動きを徒手的にコントロールした評価と代償のとらえ方

肩関節屈曲を評価するときは、通常のROM測定に加えて、肩甲骨の動きを触診しながら挙上を確認します。必要に応じて肩甲骨の動きを徒手的にコントロールすることで、肩甲上腕関節そのものの可動性と肩甲胸郭運動の寄与を推測できます。ただし、肩甲骨を制御した状態で得られる角度は通常の肩関節屈曲ROMとは意味が異なるため、単純に正常値と比較するものではありません。

測定条件についての補足 ROM値は原則として規定された測定条件で評価し、肩甲骨を徒手的にコントロールするような方法は、筋・腱の短縮や肩甲上腕関節の可動性を推測するための追加評価として位置づけられます。

また、臨床では「肩甲骨が早く動き始めるから異常」と判断されることがありますが、現在では肩甲骨は挙上初期から動いており、明確な「setting phase(肩甲骨が動き出す前の静止期)」が必ず存在するという考え方は支持されていません。重要なのは肩甲骨が何度から動いたかだけではなく、その動きが患者の症状やROM制限と関係しているかです。

組み合わせて解釈したい所見 左右差が非常に大きい/肩甲骨の動きを徒手的にコントロールすると著明にROMが落ちる/肩甲骨をアシストすると疼痛やROMが改善する/挙上に伴い過剰な体幹側屈・伸展が出現する、といった所見を組み合わせて解釈します。

肩関節屈曲ROMの評価の流れ【6つのステップ】

ここまでの個別評価を踏まえ、肩関節屈曲ROMは次の流れで整理すると評価しやすくなります。「何度挙がるか」から「なぜそこで止まるのか」へ評価を進めることが重要です。

自動ROMと他動ROMを比較する
「動かせない」のか「動かない」のかを大まかに分けます。
肩甲骨の動きを徒手的にコントロールして屈曲を確認する
肩甲骨外側縁や下角を触診しながら、どの程度から代償が増えるかを確認します。
腰椎・胸郭の代償を除外する
腰椎伸展・骨盤前傾・肋骨挙上・体幹側屈が混ざっていないかを見ます。
肘角度・上腕骨の回旋条件を変える
肘伸展位と屈曲位での比較や、内外旋条件を変えて筋の緊張条件を変化させます。
他方向のROMと組み合わせる
外旋・内旋・外転・水平内転・結帯動作・結髪動作なども合わせて評価し、単一方向のROMだけで原因を決めません。
実際の動作・ADLで確認する
更衣、整容、洗髪、高所へのリーチなど、患者が困っている動作でROM制限や代償がどう影響しているかを確認します。

振り返りポイント

評価の際に見落としていないか、次の点をチェックしてみましょう

  • 自動ROMと他動ROMの差を確認したか
  • 肩甲骨の動きを徒手的にコントロールした状態のROMを見たか
  • 腰椎・胸郭の代償を除外できているか
  • 肘角度・上腕骨回旋の条件を変えて比較したか
  • 屈曲以外の方向のROMも確認したか
  • ADLへの影響まで結びつけて評価したか

ADLとセットで評価する

作業療法士として特に重要なのがここです。患者の問題は「肩屈曲が120°しかないこと」そのものではありません。実際には、高い棚へ物を置けない、洗濯物を干しにくい、上衣を着にくい、頭を洗えない、ドライヤーを使いにくい、電車のつり革につかまれない、頭上で物を扱えないといった生活上の問題として現れます。

OTポイント 同じ屈曲120°でも、肘屈曲で代償できる・体幹を使える・反対側上肢を使える・必要な棚の高さが低いなどによってADLへの影響は異なります。ROM単体の数値だけでなく、原因組織から動作、そしてADLまでをつなげて評価することが、作業療法士としての視点になります。

まとめ

肩関節屈曲ROMの評価は、角度そのものよりも、どの組織・どの関節・どの代償がその角度を作っているのかを考えることが大切です。自動ROMと他動ROMの比較、肩甲骨の動きを徒手的にコントロールした追加評価、腰椎・胸郭代償の確認、広背筋・大円筋・大胸筋・上腕三頭筋長頭などの評価、そして他方向のROMやADLへの影響まで結びつけることで、評価と介入の精度は大きく変わります。

肩関節屈曲のROM制限を「◯◯度だった」で終わらせず、年齢のせいと決めつけずに、必要に応じて医師や理学療法士など他の専門職とも連携しながら評価を深めていくことが望まれます。

よくある質問

肩甲上腕リズムの「2:1」という比率は必ず守られますか?
固定された比率ではなく、挙上角度や個人によって変化することが報告されています。比率そのものより左右差や代償の程度を相対的に見る方が実用的です。
自動ROMと他動ROMに差がある場合、まず何を疑いますか?
疼痛、三角筋や腱板の機能低下、神経学的な問題などが選択肢になります。差の程度や動作時の代償パターンと合わせて総合的に判断します。
肩甲骨の動きを徒手的にコントロールして評価する際、どこを触診しますか?
肩甲骨の外側縁や下角を触診しながら、どの角度から肩甲骨の動きが増えるかを確認する方法がよく用いられます。
上腕三頭筋長頭の影響を疑うのはどんなときですか?
肘伸展位では比較的挙がるのに、肘屈曲位で屈曲ROMが低下する場合に、影響している可能性の一つとして考えられます。
屈曲制限がある場合、屈曲以外にどの方向のROMも確認すべきですか?
外旋・内旋・外転・水平内転・結帯動作・結髪動作なども合わせて確認します。特に関節包性の制限では複数方向に制限がみられることがあります。
評価した結果はどの職種と共有すればよいですか?
医師・看護師・理学療法士・介護職など、患者に関わる多職種へ、制限因子と生活動作への影響を含めて共有することが望まれます。

参考文献

  • Scapular kinematics variability in individuals with and without rotator cuff-related shoulder pain: A systematic review with multilevel meta-regression. Brazilian Journal of Physical Therapy, 2025.
  • The biomechanics of the rotator cuff in health and disease – A narrative review. Journal of Clinical Orthopaedics and Trauma, 2021.
  • Scapular dyskinesia: evolution towards a systems-based approach. British Journal of Sports Medicine, 2016.

本記事は上記文献等をもとにした参考情報であり、個別の評価・診断の代替となるものではありません。

執筆:作業療法士(訪問型の自費リハビリ「Home Reha 福岡」運営)
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