【作業療法士が解説】肩関節の可動域制限因子|屈曲・外転・内外旋を運動方向別に整理
「屈曲が120°で止まる」「外旋だけ極端に硬い」「内旋で肩甲骨がすぐ動いてしまう」——こうした所見は臨床でよく経験します。重要なのは角度そのものより、何がその運動を止めているのかという視点です。この記事では、肩関節の可動域制限因子を運動方向別に整理し、屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋の可動域制限因子はそれぞれ何か、外旋制限をどう評価するか、肩関節ROMのどこを見ればよいかを臨床的に解説します。
目次
肩関節の可動域制限因子|まず全体像
肩関節の可動域は、関節包、関節上腕靱帯、烏口上腕靱帯、筋・腱、肩甲骨の運動、胸郭・胸椎、骨性衝突、疼痛など、多くの要素によって決まっています。さらに肩関節の靱帯は常に同じ強さで張っているわけではなく、肩関節の角度や内外旋の肢位によって、緊張する関節包・靱帯の部位が変化します。そのため「外旋制限=前方関節包」のように一対一で覚えるのではなく、肢位を含めて考える必要があります。まずは運動方向ごとの代表的な可動域制限因子を一覧で整理します。
| 運動方向 | 主な制限因子 |
|---|---|
| 屈曲 | 広背筋、大円筋、大胸筋胸肋部、上腕三頭筋長頭、後下方関節包、肩甲骨上方回旋制限 |
| 伸展 | 前方関節包、大胸筋、上腕二頭筋など前方組織 |
| 外転 | 下方関節包、IGHLを含む下方関節包・靱帯複合体、内転筋群、肩甲骨上方回旋 |
| 内転 | 上方関節包、烏口上腕靱帯、上方組織、体幹との接触 |
| 外旋 | 前方関節包、烏口上腕靱帯、関節上腕靱帯、肩甲下筋 |
| 内旋 | 後方〜後下方関節包、棘下筋、小円筋など |
| 水平内転 | 後方関節包、棘下筋、小円筋、三角筋後部 |
| 水平外転 | 前方関節包、大胸筋、肩甲下筋など |
代表的な因子であって絶対ではない
上記はあくまで代表的な制限因子の整理です。実際の臨床では、疼痛や筋スパズム、変形性関節症、骨折後の変形、腱板病変などによっても可動域は大きく変わるため、個別の評価と組み合わせて解釈することが重要です。
上の表を運動方向ごとの位置関係でまとめると、次の図のようになります。
1.肩関節屈曲の可動域制限因子
肩関節屈曲では上肢を前方から挙上していきます。肩関節複合体としての屈曲可動域は一般的におおむね180°とされていますが、その角度のすべてが肩甲上腕関節(肩甲骨と上腕骨がつくる関節)だけで生じるわけではなく、肩甲骨の上方回旋や胸椎の運動も関与します。
屈曲を制限しやすい筋
代表的なのは広背筋、大円筋、大胸筋胸肋部、上腕三頭筋長頭などです。特に広背筋・大円筋は肩関節の伸展・内転・内旋方向に作用する筋であるため、短縮すると屈曲を制限しやすくなります。大胸筋は部位によって作用が異なり、鎖骨部はむしろ屈曲にも作用するため、大胸筋では特に胸肋部の短縮が挙上制限に関与することがあります。臨床では「仰臥位では比較的上がるが、腰椎を反らさないと最終域まで上がらない」というケースで、広背筋の短縮が関与していることがあります。
関節包による制限
屈曲最終域では後方〜下方の関節包にも張力が生じるとされ、肩甲上腕関節そのものの屈曲が不足している場合には、後下方関節包の柔軟性低下も確認しておきたいポイントです。ただし「屈曲制限=後方関節包」と単純に決めつけることはできません。
肩甲骨の上方回旋不足
屈曲では肩甲骨が上方回旋・後傾・外旋しながら上腕骨の挙上を補助します。そのため前鋸筋機能低下、僧帽筋機能低下、小胸筋短縮、胸椎後弯増大などによって肩甲骨運動が不足すると、肩関節屈曲も制限されやすくなります。
臨床ポイント
屈曲制限をみたときは、「肩甲上腕関節そのものの可動性が低下しているのか」「肩甲骨や胸椎を含む肩甲帯の運動が不足しているのか」を分けて考えることが評価の起点になります。
2.肩関節伸展の可動域制限因子
肩関節伸展は上腕を後方へ動かす運動で、前方の組織が伸張されます。主な制限因子は前方関節包、大胸筋、三角筋前部、上腕二頭筋など肩前面の軟部組織です。これらの柔軟性が低下していると、伸展時に前方で張りを感じることがあります。
肩甲骨代償に注意
伸展可動域を測定しているつもりでも、肩甲骨前傾・肩甲骨内転・体幹回旋・腰椎伸展が混ざっていることがあります。純粋な肩甲上腕関節の伸展をみたい場合には、肩甲骨や体幹の代償を確認しながら測定する必要があります。
3.肩関節外転の可動域制限因子
肩関節外転では下方関節包の伸張性が重要です。また、外転角度が増えるにつれて下関節上腕靱帯複合体(IGHL:肩関節を下方・前後方向から安定させる靱帯群)を含む下方靱帯複合体の張力も変化するとされています。主な制限因子は下方関節包、IGHLを含む下方靱帯複合体、大胸筋、広背筋、大円筋、肩甲骨上方回旋不足です。
下方関節包が硬いと外転しにくい
上腕骨頭が外転していくためには、関節包の下方部分に十分な余裕が必要です。そのため下方関節包が硬くなると、肩甲上腕関節としての外転が制限されやすくなります。
上腕骨外旋も重要
肩関節を大きく外転する過程では上腕骨外旋が伴い、挙上時の大結節と肩峰周囲の位置関係を調整します。外旋が不足すると大結節と肩峰周囲のクリアランス(隙間)を確保しにくくなるため、「外転が硬いと思っていたら、実は外旋制限が強かった」というケースもあります。肩甲骨の上方回旋不足も同様に、外転複合体としての可動域を低下させます。
4.肩関節内転の可動域制限因子
肩関節内転では上腕を体幹側へ近づけます。日常生活では単純な内転よりも、水平内転や伸展・内旋などと組み合わされることが多い運動です。主な制限因子は上方関節包、烏口上腕靱帯、上方組織、三角筋、棘上筋、体幹との接触などが考えられます。
純粋な内転では早い段階で上腕と体幹が物理的に接触するため、内転可動域そのものを単独で評価するより、水平内転や結帯動作など他の複合運動の中で評価することの方が臨床では多くなります。
5.肩関節外旋の可動域制限因子|下垂位と90°外転位の違い
肩関節外旋は、肩関節拘縮をみるうえで非常に重要な運動です。特に注意したいのが、外転0°(下垂位)での外旋と、外転90°での外旋では制限因子が異なるという点です。
外転0°付近(下垂位)での外旋
腕を体側につけた状態では、烏口上腕靱帯、rotator interval周辺(棘上筋腱と肩甲下筋腱の間に位置し、烏口上腕靱帯や上関節上腕靱帯などを含む領域)、前上方関節包、肩甲下筋などが主な制限因子になります。特に烏口上腕靱帯やrotator interval周辺の前上方構造は、下垂位付近での外旋制限に関与するとされています。
外転90°での外旋
肩関節を外転していくにつれて下関節上腕靱帯複合体(IGHL)が重要になり、90°外転位で外旋するとIGHL anterior band(前方帯)を含む前下方関節包の張力が増加します。
肢位による制限因子の整理
- 下垂位外旋が硬い → 烏口上腕靱帯、rotator interval周辺、前上方関節包、肩甲下筋など
- 90°外転位外旋が硬い → 前下方関節包、IGHL anterior band(前方帯)
上記の違いを図でまとめると、次のようになります。
肩甲下筋も確認する
肩甲下筋は肩関節内旋筋であるため、短縮すれば外旋制限につながります。ただし「外旋制限=肩甲下筋短縮」と決めつけるのは危険です。関節包性の拘縮なのか、筋性なのか、疼痛性なのかを評価する視点が必要です。
6.肩関節内旋の可動域制限因子
肩関節内旋では後方組織の柔軟性が重要になります。主な制限因子は後方〜後下方関節包、棘下筋、小円筋、三角筋後部などです。
特に90°外転位内旋を見る
肩関節を90°外転した状態で内旋すると、後方〜後下方組織の影響を評価しやすくなるとされています。このとき、肩甲骨が浮いたり前傾したりするまで内旋角度として測定しないことが重要です。肩甲骨の代償を許すと、見かけ上の内旋可動域は大きくなってしまいます。
後方関節包の柔軟性が低下すると、内旋や水平内転の制限として現れることがありますが、ここでも棘下筋や小円筋など後方腱板の柔軟性低下との鑑別が必要です。
7.水平内転の可動域制限因子
水平内転は、肩関節を90°程度挙上して腕を反対側へ動かす運動です。主な制限因子は後方関節包、後下方関節包、棘下筋、小円筋、三角筋後部などで、水平内転制限は後方組織の柔軟性をみる一つの手がかりとなります。
肩甲骨の動きに注意
水平内転すると肩甲骨は外転してきます。肩甲骨を固定せずに測定すると、「肩甲上腕関節が動いている」のか「肩甲骨が動いている」のか分からなくなるため、後方組織を評価したい場合には肩甲骨の運動を確認しながら測定します。
8.水平外転の可動域制限因子
水平外転では前方組織が伸張されます。主な制限因子は前方関節包、大胸筋、肩甲下筋、三角筋前部などです。特に大胸筋短縮が強いケースでは、肩甲骨前傾・外転などを伴っている場合もあります。
「筋か関節か」を分ける|自動ROMと他動ROM・end feel
可動域が狭いからといって、すぐに筋ストレッチを行えばよいわけではありません。まず、自動運動と他動運動を比較することが評価の起点になります。
| 所見パターン | 考えやすい原因 |
|---|---|
| 自動ROMだけ低下 | 筋力低下、腱板機能低下、疼痛、運動制御不良、神経学的問題 |
| 自動・他動ともに低下 | 関節包拘縮、筋短縮、骨性制限、強い疼痛、関節変形 |
疼痛によるROM制限と構造的なROM制限を分ける
他動運動で最終域まで到達する前に疼痛が強くなって止まる場合と、明確な組織抵抗によって止まる場合では解釈が異なります。角度だけでなく、疼痛出現角度、疼痛部位、end feel、左右差を合わせて確認します。
end feel・終末域でみられる反応も確認する
他動運動では角度だけでなく、最終域の抵抗感(end feel)も重要な情報になります。
| 終末域の反応 | 疑われる要因 |
|---|---|
| Firm | 関節包・靱帯・筋など軟部組織による抵抗 |
| Hard | 骨性制限 |
| Empty | 強い疼痛によって動かせず、明確な組織抵抗を感じる前に運動が止まる |
| Muscle spasm | 防御性収縮によって終末域に達する前に運動が止まる |
教科書によって分類は多少異なり、Muscle spasmは典型的なend feelとはやや性質が異なるものとして扱われることもあります。
「ROMが120°だった」という情報だけでなく、「120°で、どのように止まったのか」まで評価すると、原因を絞りやすくなります。
肩関節拘縮とcapsular pattern
肩関節の関節包性拘縮では、古典的には「外旋制限が最も目立ち、次いで外転、内旋」とされることがあります(いわゆるcapsular pattern:関節包性の制限に特徴的な、運動方向ごとの制限順序のパターン)。ただしこの順序は文献や評価方法によって必ずしも一貫しないため、あくまで一つの目安として捉えます。特に外旋制限は肩関節拘縮を評価するうえで重要な所見とされています。
パターンだけで診断しない
capsular patternだけで疾患を診断することはできません。疼痛、病歴、自動・他動ROM、筋力、画像所見などを組み合わせて総合的に判断する必要があります。
肩関節ROMを見るときの5つのポイント
評価の流れ
- 自動ROMと他動ROMを比較する
- 肩甲骨の過剰な代償がいつ出るかを見る
- 外旋は外転角度を変えて評価する
- 内旋も肩甲骨代償を確認する
- 制限方向の組み合わせを見る
① 自動ROMと他動ROMを比較する
まず筋力・疼痛による問題なのか、関節そのものが硬いのかを大まかに分けます。
② 肩甲骨の過剰な代償がいつ出るかを見る
正常な肩甲上腕リズムでも、肩甲骨は挙上初期から一定程度動いています。そのため「肩甲骨が動いた=そこから代償」とは言えません。肩甲上腕関節の可動性が低下している場合、挙上初期から肩甲骨の上方回旋・挙上・体幹側屈などが過剰に出現することがあるため、左右差や、挙上初期からみられる過剰な肩甲骨運動の有無を観察します。単純に「手がここまで上がった」で評価しないことが重要です。
③ 外旋は外転角度を変えて評価する
外転0°と90°では緊張する関節包・靱帯が異なるため、「外旋○°」だけでは情報として不十分です。何度外転位で測定したのかを明確にします。
④ 内旋も肩甲骨代償を確認する
内旋では肩甲骨前傾・外転などによる代償が起こりやすいため、肩甲骨を観察しながら測定します。
⑤ 「制限方向の組み合わせ」を見る
屈曲・外転・下垂位外旋・90°外転位外旋・90°外転位内旋・水平内転など、一方向だけでなく複数方向を組み合わせて見ることで、どの組織が関与しているのか推測しやすくなります。
これら5つのポイントを図でまとめると、次のようになります。
「○○が硬いからROM制限」と断定しない
肩関節ROM評価で最も注意したいのがこの点です。たとえば内旋制限があるからといって「後方関節包が硬い」と即断することはできません。内旋制限には後方関節包、棘下筋、小円筋、疼痛、骨性要因、肩甲骨運動、上腕骨頭の位置など複数の因子が関与します。外旋制限も同様に、関節包、烏口上腕靱帯、関節上腕靱帯、肩甲下筋、疼痛などさまざまです。「ROMの方向」→「どの組織が伸張されるか」→「他の検査所見と一致するか」という順番で考えることが臨床的です。
まとめ
振り返りポイント
- 角度だけでなく「何が運動を止めているか」を考える
- 肢位(下垂位/90°外転位)によって外旋・内旋の制限因子が変わる
- 自動ROMと他動ROMの差、肩甲骨の代償タイミングを確認する
- end feelの質(Firm/Hard/Empty/Muscle spasm)も評価に加える
- 単一方向の所見だけで組織を断定しない
肩関節の可動域制限を評価するときは、角度だけを見るのではなく、運動方向ごとの制限因子を考えることが重要です。屈曲は広背筋・大円筋・後下方組織・肩甲骨運動、伸展は前方関節包・前方筋群、外転は下方関節包・IGHL・肩甲骨上方回旋、内転は上方組織・烏口上腕靱帯・体幹との接触、外旋は下垂位では烏口上腕靱帯やrotator interval周辺、90°外転位では前下方関節包やIGHL anterior band、内旋は後方〜後下方関節包・後方腱板が代表的な制限因子になります。ただし肩関節では肢位によって関節包・靱帯の緊張する部分が変化するため、特に外旋では下垂位と90°外転位を分けて評価することが重要です。可動域制限を単なるROMの角度測定だけで終わらせず、「どの組織がこの運動を止めているのか」まで考えることで、評価から介入へつながる情報になります。
よくある質問
参考情報
- Chang LR, Anand P, Varacallo MA. Anatomy, Shoulder and Upper Limb, Glenohumeral Joint. StatPearls.
- Itoi E, et al. Dynamic capsuloligamentous anatomy of the glenohumeral joint.
- Ferrari DA. Capsular ligaments of the shoulder. Anatomical and functional study of the anterior superior capsule.
- Physiotherapy assessment of shoulder stiffness and how it influences management.
- Shoulder biomechanics in normal and selected pathological conditions.
上記は参考情報であり、診断の代替ではありません。
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