【作業療法士が解説】Rey複雑図形検査(ROCFT)とは?実施方法・採点方法(36点満点)・結果の見方をリハビリ職向けに解説
高次脳機能障害の評価では、MMSEやHDS-R、TMTなどさまざまな検査が用いられます。その中でも、視空間認知・構成能力・視覚性記憶・計画性などを総合的に観察できる検査が「Rey複雑図形検査」です。
一見すると複雑な図形を写して描くだけの検査ですが、実際にはどこから描き始めるか、全体の枠組みから描くか、図形の位置関係を保てているか、一度見た図形をどの程度覚えているかなど、多くの情報を得ることができます。
この記事では、Rey複雑図形検査の実施方法・採点方法・結果の解釈・臨床で見るポイントを、「実施方法は分かるけれど結果の意味づけが難しい」「合計点だけでどう解釈すればよいか迷う」と感じるリハビリ職向けにわかりやすく解説します。
ROCFTは「36点中何点だったか」だけを見る検査ではありません。本記事では、正確性・配置・描画順序・再生・行動観察の5つの視点から、結果を臨床でどう読み解くかまで解説します。
目次
Rey複雑図形検査(ROCFT)とは?
Rey複雑図形検査は、複雑な幾何学図形を用いた神経心理学的検査で、正式には「Rey-Osterrieth Complex Figure Test(ROCFT/ROCF)」と呼ばれます。単純な「記憶検査」ではなく、複雑な図形を正確に認識し、各要素の位置関係を整理して描く必要があるため、視空間認知や構成能力だけでなく、注意、計画、組織化など複数の認知機能が関係します。
- 視空間認知
- 視覚構成能力
- 視覚性記憶
- 注意・集中
- 計画性・組織化(遂行機能)

基本的な流れ(模写・即時再生・遅延再生)
ROCFTには複数の実施手続きがあります。一般的には、①見本を見ながら描く「模写(Copy)」、②見本を取り除き、直後または短時間後に記憶から描く「即時・短時間後再生(Immediate Recall)」、③一定時間後に再び記憶から描く「遅延再生(Delayed Recall)」などが用いられます。再生までの時間や再認課題の有無は、採用する手続きによって異なります。
① 模写課題
最初に複雑図形を提示し、見本を見ながらできるだけ正確に模写してもらいます。ここで重要なのは、「絵が上手かどうか」を評価する検査ではないという点です。図形全体を捉えられているか、各要素の位置関係を把握できているか、大きな構造から描いているか、描画を計画的に進められているかなどを観察します。
| 観察項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 全体構成 | 図形全体の形を捉えているか |
| 配置 | 各要素の位置関係が適切か |
| 大きさ | 極端に大きい・小さい部分がないか |
| 描画順序 | 全体→細部か、細部→細部か |
| 修正 | 自分の誤りに気づいて修正するか |
| 所要時間 | 極端に時間がかかっていないか |
| 行動 | 迷い、確認、試行錯誤などがあるか |
② 即時・短時間後再生
模写終了後、見本を取り除き、一定時間後に記憶だけで図形を描いてもらいます。古典的な手続きでは短時間後の再生が用いられ、3分後再生を採用した研究もあります。ここでは「複雑な視覚情報をどのように取り込み、保持し、再現できるか」を評価します。模写が良好なのに再生が大きく低下する場合には、視覚性記憶の問題を考える材料になります。一方で、模写段階から図形をうまく整理できていなければ、再生得点が低くても「記憶だけの問題」とは限りません。
③ 遅延再生
一定時間経過後に、再び見本を提示せず図形を描いてもらいます。遅延時間は採用する手続きによって異なり、20〜30分程度の遅延再生が用いられることがあります。ここでは、時間経過後にも視覚情報を保持し、検索・再生できるかを評価します。

- 模写(見本を見ながら描く) — 視空間認知・構成・計画の働きが表れる
- 短時間後再生(記憶から描く) — 視覚情報の符号化・保持・再生の働きが表れる
- 遅延再生(時間をおいて再度描く) — 視覚情報の保持・検索の働きが表れる
採点方法
代表的なOsterrieth法では、複雑図形を18の構成要素に分けて採点します。それぞれについて、形が正しく描かれているか、正しい位置に配置されているかを評価し、各要素は最大2点で、18要素×2点=36点満点となります。
| 得点 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 2点 | 正確に描かれ、位置も適切 |
| 1点 | 形または位置の一方に問題がある |
| 0.5点 | 不正確だが要素として認識可能で、位置にも問題がある |
| 0点 | 認識できない、または描かれていない |
実際の採点では、使用している標準化された採点基準に従うことが重要です。「だいたい合っているから1点」のように自己流で判断すると、評価者間で得点が変わる可能性があります。
「合計点」だけ見てはいけない理由
Rey複雑図形検査で特に重要なのがここです。36点中何点だったかだけでは、患者さんの認知機能を十分に理解できません。同じ得点でも、描き方によって意味が大きく異なる可能性があります。
「何が起きているか」は分からない
例① 全体構造から描く
最初に大きな長方形など全体の骨格を描き、その後に内部の細かな要素を追加していくタイプです。図形を「まとまり」として組織化している可能性があり、効率的な方略と考えやすい描き方です。
例② 細部からバラバラに描く
小さな線や別の小さな図形など、局所的な要素をつなぎ合わせるように描くケースがあります。この場合、最終的な模写得点が比較的高くても、全体構造を効率よく組織化できていない可能性があります。図形を意味のあるまとまりとして整理して模写できているほど、その後の記憶再生が良好になりやすいことが報告されています。
ただし、断片的な描画方略がみられたからといって、それだけで遂行機能障害を意味するわけではありません。描画の正確性や再生成績、他の神経心理学的検査、行動観察などと合わせて解釈します。

| 描き方 | プロセス | 解釈の材料 |
|---|---|---|
| 全体構造型 | 大枠 → 主要構造 → 細部 | 全体を整理してから細部へ進む方略 |
| 断片型 | 細部 → 細部 → 細部 → 細部 | 部分をつなぎ合わせて描く方略 |
模写と再生の組み合わせから考える
ROCFTでは、模写と再生をセットで見ることが重要です。

| 再生成績が比較的保たれる | 再生成績が低い | |
|---|---|---|
| 模写良好 | 構成・再生とも比較的良好 | 視覚性記憶などを検討 |
| 模写低下 | 模写時の注意・構成・運動・方略などを検討 | 構成・符号化・記憶など複数要因を検討 |
視空間認知・構成能力が比較的保たれており、視覚情報の記憶・再生も良好と考えられます。
見本を見ながらなら正確に描けるものの、記憶からの再生が難しいパターンです。視覚性記憶の符号化・保持・検索などについて、他の検査結果も含めて検討します。
再生得点が低いからといって、「視覚性記憶障害がある」と単純に判断することはできません。模写の時点で図形を正確に認識・構成できていなければ、そもそも記憶する情報が十分に形成されていない可能性があります。たとえば、視空間認知・構成・注意・方略などの問題によって視覚情報を十分に整理・符号化できず、その結果として再生成績にも影響している可能性があります。
「模写○+再生×=記憶障害」「模写×+再生×=構成障害」のように一対一で結びつけることはできません。あくまで検討すべき仮説の一つとして、他の検査結果や行動観察と合わせて総合的に解釈します。
「記憶できない」のか「整理できない」のか
ROCFTを臨床で使うときに非常に重要な視点です。患者さんが再生できなかった場合、「記憶力が悪い」だけで終わらせないことが大切です。たとえば模写時に、細部から描き始める、全体の位置関係が崩れる、描画順序に一貫性がない、同じ部分を何度も修正するといった特徴があれば、視覚情報を効率よく整理・組織化する段階に問題がある可能性があります。情報を整理して取り込めなければ、その後の記憶再生も難しくなります。
- 入力(図形を目で捉える)
- 認知(要素と位置関係を把握する)
- 組織化(全体としてまとめて整理する)
- 記憶(整理された情報として保持する)
- 検索・再生(保持した情報を引き出して描く)
描画過程そのものが重要な評価になる
ROCFTでは完成した図だけでなく、「どうやって完成させたか」にも重要な情報があります。最初にどこを描いたか、大枠を利用したか、描画順序は計画的だったか、同じ場所を何度も描き直したか、細部に固執していなかったかなどです。完成した図だけを見ると同じ30点でも、「大枠→内部構造→細部」の順で描いた人と、「左上の細部→中央の細部→右端→大枠……」という順で描いた人とでは、情報処理の仕方が異なる可能性があります。そのため、必要に応じて採点法に沿った描画プロセスの評価も行います。
リハビリ職がROCFTを見るときのポイント
OT・PT・STなどのリハビリ職では、検査結果をADL・IADLへつなげて考えることが重要です。たとえば「全体を整理せず、細部から処理する」という特徴がみられた場合、日常生活場面でも同様の傾向がないかを確認します。
- 複数工程の作業で順序が混乱する
- 必要な情報を整理できない
- 細かい部分に集中して全体を見失う
- 新しい手順を覚えにくい
- 視覚情報が多い環境で混乱する
ただし、ROCFT単独から日常生活上の障害を断定することはできません。実際の作業観察や他の神経心理学的検査と組み合わせて解釈する必要があります。
他の検査と組み合わせる
高次脳機能は、1つの検査だけで判断するものではありません。特に「記憶」「注意」「遂行機能」「視空間認知」は相互に影響するため、ROCFT低下=特定の高次脳機能障害と一対一で結びつけないことが重要です。
| 検査名 | 主に見ているもの |
|---|---|
| TMT | 視覚探索・処理速度・注意、セットの切り替えなど |
| FAB | 前頭葉機能・遂行機能のスクリーニング |
| BADS | 遂行機能(計画・行動の切り替えなど) |
| MMSE/HDS-R | 全般的な認知機能のスクリーニング |
| 視空間認知に関する検査 | 空間内での位置関係の把握 |
| 言語性・視覚性記憶検査 | 記憶の種類ごとの保持・想起の程度 |
| ADL・IADL評価 | 実生活での動作への影響 |
神経心理学的検査では、年齢や教育歴などの背景因子によって成績が変化することがあります。ROCFTについても、単純に「○点以下なら異常」と一律に判断するのではなく、使用している標準値や対象者の背景を考慮する必要があります。「36点満点中20点だから視覚性記憶障害」といった判断は避けます。
ROCFTを臨床で見る5つのポイント
検査を実施・解釈するときは、次の5点に分けると整理しやすくなります。

| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ①正確性 | どの程度正確に描けたか |
| ②配置 | 図形同士の位置関係を保てているか |
| ③描画順序 | 全体構造から描いたか、細部から描いたか |
| ④再生 | 短時間後・遅延後にどの程度再現できたか |
| ⑤行動観察 | 迷い、修正、確認、細部への固執などがなかったか |
実施・解釈における注意点
① 運動機能の影響
上肢麻痺、失調、振戦、巧緻動作障害などがある場合、認知機能とは別に描画能力そのものが影響します。「線が歪んでいる=視空間認知障害」とは限りません。
② 視覚機能の影響
視力低下、視野障害、半側空間無視などがある場合も結果に影響します。特に脳卒中患者では、描画結果だけで判断せず、視野・眼球運動・空間性注意なども確認します。
③ 模写低下は再生にも影響する
模写の段階で情報を正確に取り込めていなければ、再生得点も低下する可能性があります。そのため、再生得点を単独で評価しないことが重要です。
④ 実施方法を統一する
ROCFTには複数の実施方法や採点システムがあります。短時間後再生を行う方法、30分後の遅延再生を行う方法、再認課題を追加する方法などがあり、手続きによって結果が変わる可能性があります。臨床では、使用するマニュアルに沿って実施条件を統一することが重要です。
- 合計点だけでなく描画プロセスを見る
- 模写と再生はセットで解釈する
- 「記憶できない」と「整理できない」を区別する
- 運動機能・視覚機能の影響も確認する
- 他の高次脳機能検査と組み合わせて総合的に判断する
よくある質問
参考文献・参考資料
- Zhang X, et al. Overview of the Complex Figure Test and Its Clinical Application in Neuropsychiatric Disorders, Including Copying and Recall. Front Neurol. 2021.
- Deckersbach T, et al. Reliability and validity of a scoring system for measuring organizational approach in the Complex Figure Test. J Clin Exp Neuropsychol. 2000.
- Loring DW, et al. Psychometric construction of the Rey-Osterrieth Complex Figure: methodological considerations and interrater reliability. Arch Clin Neuropsychol. 1990.
※検査の具体的な実施・採点は、使用する正式な検査マニュアルおよび施設の基準に従ってください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の臨床判断や診断の代わりとなるものではありません。






