【作業療法士が解説】自宅の転倒予防|場所別に見る住環境のチェックポイント
退院後に自宅での生活を再開したときや、年齢とともに足腰の衰えやふらつきが気になってきたとき、注意したいのが自宅内での転倒です。
転倒予防というと、筋力やバランス能力といった身体機能に目が向きがちです。しかし実際の生活では、本人の身体機能や動作と、自宅の環境が合っているかという視点も欠かせません。同じ段差や家具でも問題なく使える人もいれば、転倒につながる人もいるためです。
この記事では、作業療法士の視点から、玄関・廊下・リビング・浴室・キッチンなど、自宅内の場所ごとに確認したい転倒予防のポイントを解説します。「どこを見直せばいい?」「手すりを付ければ安心?」と感じている方にも分かりやすく紹介します。
こんな方におすすめの記事です
- 退院後、自宅での転倒が心配な方・ご家族
- 足腰の筋力低下やふらつきを感じ始めた高齢の方
- 脳卒中の後遺症や、変形性膝関節症・変形性股関節症などで歩行が不安定な方
- 自宅の手すりや福祉用具の必要性を判断したいケアマネジャー・介護職の方
- 賃貸住宅で「住宅改修ができない」と感じている方
目次
作業療法士が自宅を評価する流れ
- 生活動作の確認(歩行・立ち座り・またぎ動作などを実際に見る)
- 環境要因の抽出(段差・床材・照明・家具配置などを確認する)
- 動作と環境の関連分析(「どの動作の、どの瞬間に」不安定になるかを結びつける)
- 対応策の検討(住宅改修・福祉用具・家具配置の変更・生活動作の変更を組み合わせる)
- 導入後の再評価(対策後も実際の動作で安全に使えているかを確認する)
「環境評価」とは何を見ること?
自宅の環境評価は、単に「段差がある」「手すりがない」「床に物がある」といった危険箇所を探すだけではありません。
重要なのは、その環境の中で本人が実際にどのように動いているのかを見ることです。立ち上がり、方向転換、後ずさり、物を持ったままの移動など、普段の生活動作のどの瞬間にバランスを崩しているのかを確認します。
具体的には、次のような点を明らかにしていきます。
- どの場所で、どの動作のときにバランスを崩しやすいか
- 本人の身体機能(筋力・バランス能力・可動域など)と環境が合っているか
- 住宅改修や福祉用具でどこまで安全性を高められるか
- 改修が難しい場合に、生活動作や生活様式そのものを変える余地があるか
- 対策を導入した後も、実際に安全に・無理なく続けられそうか
自宅内の転倒リスクマップ|場所ごとに確認したいポイント
玄関|段差と靴の着脱を確認する
玄関でまず確認したいのが上がり框の高さです。段差が高い場合、昇り降りの際にバランスを崩す可能性があります。本人の身体機能や動作能力に応じて、次のような方法を検討します。
- 本人の動作に合った高さ・奥行きの踏み台を設置する
- 手すりを設置する
- 靴を履くための椅子を設置する
玄関で確認したいチェックポイント
廊下|「手すりを付けられない」で終わらせない
廊下では、移動能力に応じて手すりの必要性を評価します。ただし、賃貸住宅などでは「壁に穴を開けられないから手すりを設置できない」というケースも少なくありません。
リビング|ラグやこたつ布団は転倒要因になる
リビングでは足元の環境を確認します。特に、ラグ・絨毯・電源コード・こたつ布団・床に置かれた物などはつまずきの原因になります。可能であれば、歩行経路にかかる物を減らし、できるだけ足元をシンプルにします。ラグや絨毯を完全に撤去することが難しい場合は、撤去または滑り止めで固定するなど、配置・固定方法を見直すことも選択肢になります。
また、日本の住宅では床に座って生活している人も少なくありません。しかし、身体機能が低下している人の場合、床からの立ち上がりが不安定になり、転倒リスクが高まることがあります。可能であれば、床座り中心の生活から椅子・テーブルを使った生活へ変更することも検討します。テレビを見るときなども同様です。
リビングで確認したいチェックポイント
履物|スリッパと靴下にも注意する
室内履きも確認しておきたいポイントです。特に、かかとのない一般的なスリッパは、歩行中に脱げたり足が引っかかったりする可能性があります。また、靴下だけでフローリングを歩いている場合も滑りやすくなります。
かかとのないスリッパのリスクについては、【転倒予防】かかとなしスリッパは危険?作業療法士が教える安全な室内履きで詳しく解説しています。
浴室・脱衣所|またぎ動作まで実際に見る
浴室は特に転倒に注意したい場所です。床が濡れるため滑りやすいだけでなく、脱衣所から浴室への出入り、浴槽をまたぐ動作、浴槽からの立ち上がりなど、バランスを崩しやすい動作が連続します。対策としては、滑り止めマットや手すりなどを検討します。
浴室用の滑り止めマットの選び方については、【2026年版】浴室の滑り止めマットおすすめ3選|作業療法士が選ぶで紹介しています。
浴室で確認したいチェックポイント
トイレ|立ち座り動作を確認する
トイレでは便座からの立ち上がりを確認します。下肢筋力が低下している人の場合、立ち上がった直後にバランスを崩すことがあります。必要に応じて手すりを設置し、安全に立ち座りできる環境を整えます。
寝室|布団からベッドへの変更も検討する
床に布団を敷いて寝ている場合、床からの立ち上がりでバランスを崩したり、歩行時に布団へ足を引っかけたりすることがあります。こうした動作が不安定になっている場合には、生活環境や本人の希望も踏まえながら、ベッドへの変更を検討することがあります。
寝室で確認したいチェックポイント
キッチン|「方向転換」と「後ずさり」に注目する
キッチンは、転倒予防の住環境評価で見落とされやすい場所の一つです。
料理中は、冷蔵庫から食材を取る、後ろへ下がる、調理台へ向きを変える、食器を取る、再び方向転換するといった動作を狭い空間で繰り返します。さらに、食材や食器を持っていると両手を自由に使えず、バランスを崩した際にとっさに支えにくいこともあります。
キッチンで確認したいチェックポイント
収納|「よく使う物の高さ」を見る
収納場所も転倒予防に関係します。高い場所に日用品があれば、背伸びをしたり踏み台を使用したりする必要があります。反対に低すぎれば、深くしゃがんで物を取り、そこから立ち上がらなければなりません。
日常的によく使用する物は、本人が無理にしゃがんだり背伸びしたりせずに取り出せる高さへ移すことを検討します。目安としては腰から目線程度の高さですが、身長や可動域、バランス能力によって適切な位置は異なります。また、物を持ったまま移動や方向転換をしなくて済むよう、必要に応じて一時的に物を置ける台を設けることも選択肢になります。
収納で確認したいチェックポイント
夜間|移動経路の照明を確認する
夜間は足元が見えにくくなり、転倒リスクが高まります。特に、ベッドからトイレなど夜間によく使う移動経路は確認しておきましょう。暗い場所にはセンサーライトなどを設置し、本人がスイッチを探したり暗い状態で歩いたりしなくても済む環境を作ります。
転倒予防で大切なのは「環境」ではなく「環境×動作」
自宅内の転倒予防というと、「手すりを付ける」「段差をなくす」「マットを撤去する」といった環境整備に目が向きがちです。
しかし、作業療法士が本当に確認したいのは、その環境の中で本人がどう動いているかです。
例えば、廊下をまっすぐ歩くことはできても、キッチンで冷蔵庫を開けながら後ろへ下がった瞬間にふらつく人もいます。床から立ち上がることはできても、こたつ布団を避けながら方向転換するとバランスを崩すこともあります。
- 「どこで転びそうか」ではなく「いつもの生活動作のどの瞬間にバランスが崩れるか」まで見る
- 住宅改修・福祉用具・家具配置・生活方法の変更を組み合わせて検討する
- その人が実際に続けられる転倒予防策として提案する
自宅内転倒リスクチェックリスト
振り返りポイント
- 段差・床材・照明などの「環境」だけでなく「動作」も一緒に見る
- 手すりは「付けられるか」より「どこに、どう付けるか」で考える
- 靴・スリッパ・靴下など足元の履物も確認する
- 床座りや布団の生活は立ち上がり動作のリスクとセットで見る
- 対策は住宅改修だけでなく福祉用具・家具配置・生活動作の変更を組み合わせる
まとめ
自宅内の転倒予防では、段差や手すりなどの「環境」だけを見るのではなく、本人がその場所でどのように動いているかまで確認することが重要です。
玄関での靴の着脱、浴槽をまたぐ動作、キッチンでの方向転換、夜間のトイレ移動など、転倒につながる場面は人によって異なります。
住宅改修・福祉用具・家具配置・生活動作の変更を組み合わせながら、その人が無理なく続けられる方法を考えていくことが、自宅で安心して生活を続けるための転倒予防につながります。
参考:厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)」における転倒予防の考え方、一般社団法人日本作業療法士協会「作業療法マニュアル『IADL・住宅改修・自助具・社会参加』」が示す住環境整備の視点、World Health Organization「WHO Global Report on Falls Prevention in Older Age」(2008)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的診断や個別の住宅改修プランの代わりとなるものではありません。
よくある質問
賃貸住宅でも手すりを設置できますか?
壁に穴を開ける工事が難しい場合でも、床と天井で固定する突っ張り型の福祉用具など、原状回復しやすい方法で手すりを設置できることがあります。住宅の条件に合わせて代替手段を検討しましょう。
自宅内ではどのような場所に注意した方がいいですか?
玄関・廊下・リビング・寝室・トイレ・浴室・キッチンなど、自宅内のさまざまな場所で転倒は起こり得ます。特に、立ち上がり・方向転換・後ずさり・またぎ動作など、バランスが変化する動作が行われる場所は注意して確認します。
布団からベッドに変えるべきタイミングはありますか?
床からの立ち上がりが不安定になってきた、布団に足を引っかけることが増えたといった変化が見られる場合は、ベッドへの変更を検討する目安の一つになります。
手すりの設置や住宅改修は介護保険の対象になりますか?
要支援・要介護認定を受けている場合、手すりなどの福祉用具レンタルや、一定額までの住宅改修費が介護保険給付の対象となることがあります。ただし要件や上限があるため、担当のケアマネジャーにご確認ください。
夜間のトイレ移動で気をつけることはありますか?
寝室からトイレまでの移動経路に足元を照らすセンサーライトなどを設置し、暗い中でスイッチを探したり歩いたりしなくて済む環境を整えることが有効です。
訪問リハビリで住宅環境の相談はできますか?
医療・介護保険の訪問リハビリのほか、訪問型の自費リハビリでも、実際の生活動作を見ながら住環境の評価や福祉用具の相談を行うサービスがあります。
「自宅のどこを変えればいいか分からない」という方へ
転倒の原因は、筋力やバランス能力だけでなく、家具の配置、段差、手すりの位置、普段の生活動作など、人によって異なります。
Home Reha 福岡では、作業療法士が実際にご自宅へ伺い、住環境や実際の生活動作を確認したうえで、福祉用具・家具配置・生活方法などを一緒に検討しています。
福岡市東区・新宮町・古賀市・福津市・久山町周辺で、「自宅で転びそうで心配」「どこに手すりを付ければいいか分からない」といったお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
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