痛みの評価スケール VAS・NRS・フェイススケール 一覧(クリックで拡大)
「この患者さん、どのくらい痛いんだろう?」——リハビリ場面でよく直面するこの問いに答えるために、痛みの評価スケールは欠かせないツールです。VAS・NRS・フェイススケール(Wong-Baker FACES・FPS-Rなど)はいずれも痛みの強度を評価する代表的な方法ですが、それぞれに特徴・適応・限界があります。本記事では3つのスケールの実施方法・特徴・臨床での使い分けを、作業療法士(OT)の視点から体系的に解説します。
なぜ痛みを数値化するのか
▲ 痛みの評価スケール 全体マップ
痛みは主観的な体験であり、他者が直接観察することはできません。しかし、痛みを共通の指標で数値化することで、以下のような臨床的メリットが得られます。
| 数値化のメリット | 具体例 |
| 介入前後の変化を共通の尺度で定量的に記録できる | 理学療法前後でNRS 7→4に改善、など |
| 多職種間で共通言語として使える | Dr・Ns・PT・OT・MSWが同じ指標で情報共有 |
| 患者自身が痛みを認識・言語化しやすくなる | 「昨日は4、今日は2」という自己モニタリング |
| 研究・統計処理が可能になる | 介入効果のエビデンス構築 |
痛みの評価は「初回評価時」「介入前後」「定期的な経過観察時」に記録することが重要です。一時点のスコアよりも、経時的な変化のトレンドがリハビリ計画の修正に役立ちます。
① VAS(視覚的アナログスケール)
VASは100mmの直線(10cmの線分)を使い、患者が現在の痛みの強さに対応する位置に印をつける評価法です。左端(0mm)が「痛みなし」、右端(100mm)が「想像できる最大の痛み」を表し、印をつけた位置を定規で測定してスコア(0〜100)または0〜10に換算します。
痛みがない(0)
想像できる最大の痛み(100)
← 患者が自分でマークする位置を定規で計測(mm単位)
| 項目 | 内容 |
| 測定対象 | 痛みの強度(intensity) |
| スケール | 0〜100mm(または0〜10換算) |
| 測定方法 | 直線上に患者が印をつけ、左端からの距離をmm単位で計測 |
| 所要時間 | 約1〜2分 |
| 最小臨床的重要差(MCID) | 10〜20mm程度が臨床的に意味のある変化として報告されることがあるが、対象疾患や研究によって異なる |
| 信頼性・妥当性 | 多くの研究で信頼性・妥当性が検討されている |
VASの実施手順
VASの実施には専用の評価用紙または定規が必要です。口頭での説明だけでは正確な測定ができないため、必ず実物を提示して実施します。
| ステップ | 手順の詳細 |
| ① 用紙提示 | 10cmの直線が印刷された評価用紙を患者に見せる |
| ② 説明 | 「左端が"まったく痛みがない状態"、右端が"これ以上ないほどの最大の痛み"です」と説明 |
| ③ マーキング | 「今の痛みの強さに対応する場所に縦線を引いてください」と指示 |
| ④ 計測 | 左端から印までの距離をmmで測定し記録(例:38mm) |
| ⑤ 記録 | 測定値(mm)を記録。必要に応じて0〜10に換算(÷10) |
VASのメリット・デメリット
| 内容 |
| メリット |
連続スケールのため微細な変化を捉えやすく、臨床研究でも広く使用されている。 |
| デメリット |
専用用紙と定規が必要。認知機能低下・高齢者・小児では概念理解が困難なことがある。視覚・上肢機能障害では実施困難。 |
VASは「痛みの強さ」のみを測定します。痛みの性質(鋭い・鈍い・灼熱感など)や日常生活への影響は別途評価が必要です。また、用紙の向き(横向き推奨)や教示の統一が測定精度に影響するため、施設内でプロトコルを統一することが重要です。
② NRS(数値評価スケール)
NRSは0〜10の11段階の数値から、患者が現在の痛みに最も近い数字を選ぶ評価法です。0が「痛みなし」、10が「想像できる最大の痛み」を表し、口頭でも用紙でも実施できるため、日常臨床で最も広く使われています。
0=痛みなし 10=最大の痛み
| 項目 | 内容 |
| 測定対象 | 痛みの強度(intensity) |
| スケール | 0〜10の11段階(整数値) |
| 測定方法 | 「0〜10で今の痛みを数字で教えてください」と口頭で聴取可 |
| 所要時間 | 約30秒〜1分 |
| 最小臨床的重要差(MCID) | 1〜2点程度(対象疾患や患者背景によって異なる) |
| 信頼性・妥当性 | 信頼性・妥当性が検証されており、VASとも高い相関が報告されている |
NRSの実施手順
| ステップ | 手順の詳細 |
| ① 説明 | 「今から痛みの強さを0から10の数字で教えていただきます」 |
| ② 両端の定義提示 | 「0はまったく痛みがない状態、10はこれ以上ない最大の痛みです」 |
| ③ 評価 | 「今の痛みはいくつですか?」と口頭で尋ねる(必要に応じて数字カードを提示) |
| ④ 記録 | 患者が答えた整数値を記録(例:NRS 6/10) |
NRSのメリット・デメリット
| 内容 |
| メリット |
用紙・道具不要で口頭実施が可能。電話での経過観察にも使える。概念が理解しやすく、年齢・教育水準を問わず幅広く使用可能。日本語でも「0が痛みなし、10が最大の痛み」と直感的に伝わる。 |
| デメリット |
11段階の整数値のため、VASに比べ感度がやや低い(連続値ではなく離散値)。高度な認知機能障害では数の概念が理解できない場合がある。 |
NRSは臨床現場での使いやすさから、リハビリ介入前後の痛みの変化確認に最も頻繁に使われます。「ストレッチ前はNRS 5でしたが、終了後にNRS 2になりました」のような記録が、多職種共有や診療録記載で有用です。便宜的にNRS 1〜3を軽度、4〜6を中等度、7〜10を重度と分類されることがありますが、カットオフは対象疾患や研究によって異なります。
③ フェイススケール(Wong-Baker FACES・FPS-Rなど)
本記事では、顔のイラストから痛みの程度を選択する評価法を便宜上「FRS(表情尺度)」として解説します。実際にはWong-Baker FACES Pain Rating Scale・Faces Pain Scale-Revised(FPS-R)など複数の尺度があり、スコアリング・教示方法・対象年齢が異なります。臨床では使用する尺度を明記して記録することが重要です。
表情尺度スケールは痛みの強さを表す複数の表情イラストを提示し、患者が現在の痛みに最も近い顔を選ぶ評価法です。数値による回答が難しい場合でも視覚的に選択できるため、小児や一部の認知機能低下・言語障害のある患者に活用しやすい点が特徴です。ただし重度認知症・視覚障害・尺度の概念理解が難しい方には適さない場合もあります。代表的なものにWong-Baker FACES Pain Rating Scaleがあり、6つの表情から現在の痛みに近いものを選択し、0・2・4・6・8・10で評価します。
▲ 表情と痛みの強さの対応イメージ(解説用)。臨床では公式版(Wong-Baker FACES等)の使用を推奨します。
| 項目 | 内容 |
| 測定対象 | 痛みの強度(intensity) |
| スケール(Wong-Baker) | 0・2・4・6・8・10の6段階(0=痛みなし、10=最大の痛み) |
| スケール(FPS-R) | 0〜10の6段階(0・2・4・6・8・10) |
| 測定方法 | 表情カードを提示し「今の痛みに一番近い顔を指さしてください」 |
| 所要時間 | 約30秒〜1分 |
| 対象年齢 | Wong-Baker:3歳以上 / FPS-R:4歳以上(成人にも使用可) |
| 信頼性・妥当性 | 小児を中心に信頼性・妥当性が検証されている |
フェイススケールの実施手順
| ステップ | 手順の詳細 |
| ① 顔カード提示 | 全ての表情イラストが見えるよう患者の正面に提示する |
| ② 説明 | 「それぞれの顔は、痛みがない状態から、とても強い痛みまで、痛みの程度を表しています」(※実際の臨床使用では各尺度の公式の教示に従ってください) |
| ③ 選択 | 「今のあなたの痛みに一番近い顔を指で示してください」 |
| ④ 記録 | 選ばれた顔に対応するスコアを記録する(例:Wong-Baker FACES 6/10)。使用した尺度名もあわせて記録する。 |
フェイススケールのメリット・デメリット
| 内容 |
| メリット |
数値での回答や読み書きを必要とせず、視覚的に選択できる。小児や、自己申告が可能な一部の認知機能低下・失語症・言語的コミュニケーションが難しい患者にも活用しやすい。 |
| デメリット |
表情の「感情」と「痛みの強さ」を混同する患者がいる(悲しいから泣き顔を選ぶなど)。使用する顔のバージョン(Wong-Baker、NRS-Faces等)により結果が異なる。重度視覚障害では使用不可。スケールが粗く(6段階)、微細な変化の検出に限界がある。 |
フェイススケールで最も注意すべき点は「痛みの強さ」ではなく「感情・気分」を評価してしまうバイアスです。特に認知症の方では「泣いているから悲しい気持ち」を選ぶ可能性があります。教示を「今の痛みの強さに近い顔」と明確に伝え、必要に応じて行動観察評価(ABBEY Pain Scale等)と組み合わせて使用することが推奨されます。
3スケールの比較と使い分け
3つのスケールを臨床で使い分ける際の判断基準を以下にまとめます。対象患者の認知機能・年齢・状況に応じて適切なスケールを選択することが重要です。
| 比較項目 |
VAS |
NRS |
フェイススケール |
| スケール |
連続(0〜100mm) |
離散(0〜10) |
離散(尺度により異なる。Wong-Baker・FPS-Rは0・2・4・6・8・10) |
| 測定感度 |
最も高い |
高い |
やや低い |
| 実施のしやすさ |
用紙・定規が必要 |
口頭のみで可 |
表情カードが必要 |
| 認知症・高齢者 |
△(概念理解が難しい) |
△(数の理解が必要) |
△〜○(自己申告・尺度理解が可能な場合) |
| 小児(3歳〜) |
△(年齢・理解力による) |
△(学童以上) |
〇 |
| 失語・言語障害 |
△(指示方法を工夫すれば可) |
△〜〇(数字カードへの指さしで対応可) |
〇(指さし可) |
| 研究・論文利用 |
◎(広く使用) |
◎(広く使用) |
○ |
| 電話での使用 |
✕ |
◎(最適) |
✕ |
| 上肢・書字障害 |
△(マーキング方法への配慮が必要) |
〇(口頭のみ) |
〇(指さし可) |
患者の状態に応じたスケール選択の目安
| 対象患者 |
まず検討 |
代替・補足 |
| 成人・認知機能正常 | NRS(簡便) | VAS(研究目的) |
| 小児(3〜7歳) | フェイススケール(Wong-Baker) | — |
| 小児(8歳以上) | NRS またはフェイススケール | VAS |
| 軽〜中等度認知症 | 自己申告が可能であればNRSを優先。困難な場合はフェイススケールを検討 | PAINADなど行動観察評価との併用を推奨 |
| 重度認知症 | 行動観察評価(PAINAD・ABBEY等) | フェイススケール(補助的に・表情観察と組み合わせ) |
| 失語症 | NRS・フェイススケールなどから、理解・指さし能力に応じて選択 | 教示の理解と回答の再現性を確認しながら採用尺度を決定 |
| 頸髄損傷(C5以上) | NRS(口頭) | フェイススケール(目線や合図での指示) |
| 在宅・電話フォロー | NRS(口頭) | — |
リハビリ・在宅場面での実践ポイント
▲ 痛み評価でみるべきポイント
経時的変化を追う場合は、可能な限り同一スケールを継続して使用することが推奨されます。途中でVASからNRSに変更すると経時的な比較が困難になります。やむを得ず尺度を変更した場合は、その理由と変更後の尺度名を記録に残し、チームで共有しましょう。
リハビリ臨床・在宅場面では以下の点に注意して痛みの評価を実施します。
| 場面・状況 | 実践ポイント |
| 初回評価 |
安静時痛・動作時痛・夜間痛を分けて評価する。「今の痛み」「最悪時の痛み」「最良時の痛み」の3つを聴取することで痛みの幅を把握できる。 |
| リハビリ前後の記録 |
介入前と介入直後に同じスケールで記録。NRSでは1〜2点程度の変化が臨床的に意味のある改善の目安として用いられることがあるが、MCIDは対象疾患・患者背景によって異なるため、変化の大小だけでなく患者の生活への影響も合わせて評価する。 |
| 在宅訪問リハビリ |
在宅では簡便に実施できるNRSが使いやすい。「前回の訪問時と比べてどうですか?」と相対的変化も合わせて確認する。 |
| 認知症のある方 |
自己申告が可能かどうかをまず確認する。可能であればNRSや数字カードを試みる。自己申告が困難な場合は、PAINAD・ABBEYなどの行動観察尺度を主体とし、表情尺度を補助的に用いる。いずれの場合も表情・動作・声の観察を必ず組み合わせる。 |
| 多職種連携 |
「NRS 6/10(動作時)、NRS 2/10(安静時)」のように状況を明記して記録。看護・医師と共通言語で共有する。 |
| 疼痛教育 |
スケールを患者本人に使い方を教えることで、セルフモニタリングと痛みへの自己効力感の向上につながる。 |
痛みの評価スケールは強度(intensity)のみを測定します。痛みの生活への影響(ADL・睡眠・気分など)を多面的に評価するにはBrief Pain Inventory(BPI)などの包括的疼痛評価を、健康関連QOLまで含めて把握したい場合はSF-36などの包括的尺度を組み合わせることが有用です。また、痛みの強度が低くても生活機能への影響が大きいケースがあるため、スコアだけで判断しないことが重要です。
まとめ
VAS・NRS・フェイススケールはそれぞれ異なる特性を持ち、対象患者や臨床場面に応じて使い分けることが重要です。3つのスケールの特徴を再整理します。
| スケール | 一言で言うと | 最適な場面 |
| VAS |
連続尺度で細かな変化を捉えやすい |
臨床・研究での疼痛強度評価 |
| NRS |
簡便で繰り返し評価しやすい |
日常臨床・在宅・電話フォロー |
| フェイススケール |
言語的・数値的な回答が難しい場合にも活用しやすい |
小児・一部の認知機能低下・言語障害のある患者 |
いずれのスケールも「痛みの強度の一側面」を測定するものであり、痛みの全体像を把握するには問診・観察・生活機能評価との組み合わせが不可欠です。OTとして患者の「痛みのある生活」を理解し、作業遂行の観点から支援につなげることが、痛み評価の最終的な目的といえます。
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