肩のインナーマッスルを鍛えるセラバンドは何色がおすすめ?作業療法士が負荷の選び方を解説
肩の痛みや肩こり、腱板損傷のリハビリでよく使われる「セラバンド」。しかし「どの色を選べばいいのか」「強い方が鍛えられるのでは」と迷う方は多いのではないでしょうか。結論から言うと、肩関節周囲のインナーマッスル(ローテーターカフ)を鍛える目的であれば、一番柔らかい「ベージュ(エクストラシン)」がおすすめです。この記事では、その理由を運動学・臨床の視点から詳しく解説します。
目次
結論:ベージュがおすすめ
まず結論からお伝えします。目的別のおすすめ度は以下の通りです。
| 目的 | おすすめ |
|---|---|
| インナーマッスル強化 | ★★★★★ ベージュ |
| 肩の痛み改善 | ★★★★★ ベージュ |
| 術後リハビリ | ★★★★★ ベージュ |
| 肩甲骨トレーニング | 黄色〜赤 |
| 筋力トレーニング | 緑以上 |
なぜ柔らかい方がいいのか
理由① アウターマッスルが代償しにくい
肩の筋肉は大きく「インナーマッスル(腱板)」と「アウターマッスル」に分けられます。
| 分類 | 主な筋肉 |
|---|---|
| インナー | 棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋 |
| アウター | 三角筋・大胸筋・広背筋・僧帽筋 |
負荷が強くなると、身体はより大きな筋肉を使おうとするため、本来鍛えたいインナーではなくアウターが仕事をしてしまいます。負荷が軽ければ腱板が働き、関節を安定させながら運動できますが、負荷が強いとアウターが優位になり、肩がすくみ、フォームが崩れ、結果としてインナーへの刺激が減ってしまいます。
理由② 腱板は「大きな力」を出す筋肉ではない
腱板は肩を持ち上げる筋肉ではなく、肩関節を安定させる筋肉です。具体的には、上腕骨頭を関節窩の中央へ引き付ける役割を担っています。そのため、ベンチプレスのように重い負荷を扱う筋肉ではなく、細かいコントロールを担当する筋肉と考えるべきです。
理由③ 軽い負荷ほどフォームが安定する
例えば外旋運動の場合、ベージュであれば肘が開かず、肩が上がらず、身体が傾かない状態で行えます。しかし緑や青になると、身体をひねる、肩をすくめる、肘が離れる、腰を反るといった代償動作が増えてしまい、目的だった腱板への刺激がかえって少なくなります。
EMG研究でも軽負荷が推奨される理由
筋電図(EMG)研究では、腱板は比較的軽い負荷(30〜40%MVC程度)でも十分な筋活動が得られることが示されています。一方で、負荷が増加すると三角筋や上部僧帽筋の活動量が大きく増え、腱板だけを選択的に働かせることが難しくなると報告されています。
セラバンドの色の違い
インナー強化目的の場合のおすすめ度は以下の通りです。
| 色 | おすすめ度 |
|---|---|
| ベージュ | ★★★★★ |
| 黄色 | ★★★★☆ |
| 赤 | ★★☆☆☆ |
| 緑 | ★☆☆☆☆ |
| 青以上 | おすすめしない |
強いセラバンドを使うべき人
強いバンドが不要というわけではありません。アスリートや投球障害予防、高負荷トレーニング、肩甲骨周囲筋強化が目的の場合は、黄色〜赤、場合によっては緑も使用します。ただし、これは腱板だけを鍛える目的とは異なる点に注意が必要です。
こんな人にはベージュがおすすめ
- 五十肩
- 腱板損傷
- 腱板術後
- 肩の不安定感
- 肩こり
- デスクワーク
- 野球肩の予防
- 在宅トレーニング
- 高齢者
- 脳卒中後の肩関節訓練
セラバンドは何回やればいい?
色(負荷)と同じくらいよく聞かれるのが「回数」です。腱板トレーニングでは、10回しかできない重さよりも、20〜30回を正しいフォームで行える負荷がおすすめです。
正しいフォームの目安
- 痛みが出ない
- 最後まで肩が上がらない
- 首に力が入らない
- 肘の位置がぶれない
作業療法士からのワンポイント
「ベージュでも弱すぎる」と思う方へ
「ベージュは弱すぎるのでは」と思う方もいるかもしれません。しかし実際の医療現場では、腱板損傷の術後リハビリで、最初からセラバンドを使うことはほとんどありません。腱板修復術後の初期では、修復した腱に過度な負荷をかけないよう、輪ゴム程度のごく軽い抵抗や、自重のみで行う運動から開始することが一般的です(※術後プロトコルは施設や術式、断裂サイズによって異なります)。
その後、痛みや可動域、筋力の回復に合わせて、少しずつ負荷を上げていきます。
負荷が強すぎると肩峰下インピンジメントを助長する理由
「筋肉を鍛えるなら強い負荷の方が効果的では」と考える方も多いかもしれません。しかし肩のインナーマッスル(腱板)を鍛える場合、負荷が強すぎることで逆に肩を痛めてしまうことがあります。その理由は、上腕骨頭の求心位(中心の位置)が保てなくなるためです。
腱板の重要な役割は「肩を安定させること」
肩関節は人間の関節の中でも自由度が非常に高い構造である一方、骨同士の接触面積は小さく、不安定になりやすいという特徴があります。そこで重要になるのが腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4筋)です。腱板は、上腕骨頭を肩甲骨の関節窩へ引き寄せる「求心力(Concavity Compression)」を発揮し、肩を大きく動かす筋肉ではなく、肩関節がずれないように安定させる筋肉として機能しています。
正常時は三角筋の上方への力に腱板の下方への求心力が拮抗し、上腕骨頭は中央に保たれる。負荷が強すぎると三角筋が優位になり、腱板の求心力が追いつかず上腕骨頭が上方偏位、肩峰下スペースが狭くなる。
負荷が強いセラバンドでは、多くの人が無意識に肩をすくめる・首に力が入る・身体をひねる・肘が身体から離れるといった代償動作を行います。特に肩をすくめる動作では上部僧帽筋が過剰に働き、肩甲上腕リズムが乱れることで、肩峰下スペースがさらに狭くなり、インピンジメントのリスクが高くなります。
まとめ
肩のインナーマッスルを鍛える目的であれば、肩が上がらない・三角筋が頑張りすぎない・上腕骨頭の求心位を保てる・腱板が最後まで働き続けられる、という条件を満たす負荷が適しています。実際に、腱板損傷術後のリハビリでは、セラバンドではなく輪ゴム程度のごく軽い抵抗から開始する施設も少なくありません。それほどまでに、腱板トレーニングでは負荷の大きさよりも、正確な筋活動と関節の安定性が重視されます。
🥇インナー強化・術後・肩の痛み改善 → ベージュ(エクストラシン)
🥈肩甲骨トレーニング → 黄色〜赤
🥉筋力トレーニング → 緑以上
よくある質問
Q. ベージュでは物足りなく感じます。すぐに強い色に変えても良いですか?
A. 物足りなさを感じても、フォームが崩れていないか(肩がすくむ、肘が開くなど)を確認してから強度を上げることをおすすめします。腱板トレーニングでは負荷の大きさよりもフォームの正確さが優先されます。
Q. 黄色や緑を使ってはいけないのですか?
A. 使ってはいけないわけではありません。肩甲骨トレーニングや筋力トレーニングなど目的が異なる場合には黄色〜赤、場合によっては緑も使用します。ただし腱板(インナーマッスル)狙いの場合はベージュから始めるのが基本です。
Q. セラバンドの代わりに輪ゴムを使っても良いですか?
A. 腱板損傷の術後など、ごく軽い抵抗から始める必要がある場合には輪ゴム程度の抵抗が用いられることがあります。ただし個々の状態によって適切な負荷は異なるため、担当の医師・療法士に確認しながら進めることをおすすめします。
Q. セラバンドは何回・何セットやればいいですか?
A. 10回しかできない重さよりも、20〜30回を正しいフォームで行える負荷がおすすめです。痛みがなく、最後まで肩が上がらず、首に力が入らない状態で行えることを優先し、フォームが崩れたらそこで終了しましょう。







