肩甲上腕リズム(Scapulohumeral Rhythm)とは?正常な肩の動き・2:1の比率・筋活動・肩が上がる原因を作業療法士が徹底解説
「腕を挙げると肩がすくむ」「肩関節疾患のリハビリで肩甲骨の動きを診るよう言われるけれど、正常な動きがわからない」——そんな悩みはありませんか。
肩の挙上動作は、上腕骨だけでなく肩甲骨・鎖骨まで含めた複数の関節が協調して動く「肩甲上腕リズム(Scapulohumeral Rhythm)」という仕組みで成り立っています。この記事では、正常な肩甲上腕リズムの動き・比率の考え方・肩関節複合体(Shoulder Complex)の全体像・関与する筋肉・筋電図(EMG)の知見に加え、脳卒中片麻痺で肩がすくみ上がる原因、腱板断裂や肩甲骨ジスキネジアとの関係、臨床での評価方法とリハビリテーションまで、作業療法士の視点で解説します。
目次
① 肩甲上腕リズムとは
定義
肩甲上腕リズムとは、肩関節の挙上(外転・屈曲)動作において、肩甲骨と上腕骨(肩甲上腕関節)が一定の比率を保ちながら同時に協調して動く現象を指します。1934年にCodmanが提唱し、その後Inman(1944年)らの研究によって定量的な比率が報告されたことで、肩関節運動学の基礎概念として広く知られるようになりました。
なぜ存在するのか
肩甲上腕関節(狭義の「肩関節」)は非常に可動域が広い一方で、骨性の適合性が乏しく不安定な関節です。もし上腕骨だけで腕を真上まで挙げようとすると、途中で肩峰と上腕骨頭が衝突してしまいます。そこで肩甲骨が同時に上方回旋することで、関節窩(受け皿)の向きを変え、上腕骨頭が動くためのスペース(肩峰下スペース)を確保していると考えられています。
どんなメリットがあるのか
肩甲上腕リズムは、単なる解剖学的な「おまけの動き」ではなく、①可動域の拡大、②肩峰下でのインピンジメント(衝突)回避、③関節を安定させたまま力を発揮するための筋の張力調整、という複数の役割を同時に果たしていると報告されています。臨床でこのリズムを理解しておくと、「なぜこの患者さんは腕が挙がらないのか」を肩関節だけでなく肩甲骨・鎖骨・体幹まで含めて評価できるようになります。
② 肩関節複合体(Shoulder Complex)とは
肩関節は、実は1つの関節ではありません。臨床でよく「肩関節」と呼んでいる部分は、実際には次の4つの関節が同時に協調して動く肩関節複合体(Shoulder Complex)として機能しています。肩甲上腕リズムとは、この4関節の協調運動のうち、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節という2つの動きの関係だけを取り出して表現した概念にすぎません。
| 関節名 | 略称 | 構成する骨 | 役割の概要 |
|---|---|---|---|
| 肩甲上腕関節 (Glenohumeral Joint) | GH関節 | 肩甲骨関節窩と上腕骨頭 | いわゆる「肩関節」。可動域は最も広いが不安定な球関節 |
| 肩甲胸郭関節 (Scapulothoracic Joint) | ST関節 | 肩甲骨と胸郭 | 解剖学的な関節ではなく、肩甲骨が胸郭の上を滑走する機能的関節 |
| 肩鎖関節 (Acromioclavicular Joint) | AC関節 | 肩峰と鎖骨外側端 | 肩甲骨と鎖骨をつなぐ関節。肩甲骨の細かな回旋を鎖骨に伝える |
| 胸鎖関節 (Sternoclavicular Joint) | SC関節 | 胸骨と鎖骨内側端 | 体幹と上肢帯をつなぐ唯一の関節。鎖骨の挙上・回旋の起点 |
肩甲骨は、骨と骨が向かい合う解剖学的な関節を持たず、筋肉に支えられながら胸郭の上を滑走するように動いています。この機能的な関節を肩甲胸郭関節(Scapulothoracic Joint)と呼びます。肩甲上腕リズムを理解するうえで、「肩甲骨が動く」というのは、実質的には「肩甲胸郭関節が動いている」ことを意味している、と捉えると整理がしやすくなります。
ここで正確に押さえておきたいのは、肩甲上腕リズムとは、肩甲上腕関節(GH)と、肩甲胸郭関節(ST)に現れる肩甲骨運動との協調関係を表した概念であり、ST自体の運動は肩鎖関節(AC)・胸鎖関節(SC)の運動によって実現されているという点です。つまりSTは独立した運動源ではなく、SC関節・AC関節での動きの結果として肩甲骨に現れる運動、と捉えるのがより正確です。
肩甲骨は鎖骨を介して肩鎖関節(AC)・胸鎖関節(SC)と連動しながら動くため、肩甲骨だけが独立して運動しているわけではありません。肩甲骨が上方回旋すると、それに連動して鎖骨もSC関節を軸に、①挙上、②後方回旋、③後退という動きを見せることが報告されています。つまり肩を挙げる動作は、GH・ST・AC・SCの4関節が同時に動く「肩関節複合体全体の運動」であり、「肩甲上腕リズム」という言葉はそのうちの一部(GH関節とST関節の協調関係)を切り取った表現である、と理解しておくと臨床での説明に厚みが出ます。
③ 正常な肩甲上腕リズム
正常な肩甲上腕リズムは、挙上の角度によって大きく2つの相に分けて説明されることが多いです。
正常な肩甲上腕リズムのイメージ図
0〜30°:Setting Phase(セッティング相)
挙上の初期0〜30°付近では、肩甲骨(肩甲胸郭関節)の運動は比較的小さく、主に上腕骨(肩甲上腕関節)の動きによって挙上が進むとされています。この相は「セッティング・フェーズ」と呼ばれ、肩甲骨が本格的に動き出す前の準備段階と位置づけられています。個人差が大きく、この間に肩甲骨に軽度の下方回旋や内転がみられる例も報告されています。
30〜180°:肩甲骨と上腕骨の協調運動
セッティング相を過ぎると、肩甲骨(肩甲胸郭関節)と上腕骨(肩甲上腕関節)がほぼ同時に、一定の比率を保ちながら協調して動き始めるとされています。この協調運動の比率が、次章で解説する「2:1の法則」です。
| 角度 | 肩甲骨(ST関節)の動き | 上腕骨(GH関節)の動き |
|---|---|---|
| 0〜30° | 運動は比較的小さい | ほぼ全て上腕骨の動きで挙上 |
| 30〜180° | 上方回旋しながら協調 | 肩甲骨とおおよその比率で協調 |
④ 2:1ってどういう意味?
「2:1」とは、肩甲上腕関節(上腕骨)の動きと、肩甲骨(肩甲胸郭関節)の上方回旋の動きの比率がおおむね2:1になる、という意味です。腕全体の挙上角度3のうち、2は上腕骨、1は肩甲骨が担っている、というイメージで紹介されることの多い数値です。
全体180°のうち、最初の30°(セッティング相)を差し引いた150°分を2:1で配分すると、肩甲骨の上方回旋が約60°、肩甲上腕関節(上腕骨)の動きが約120°という組み合わせになる、という考え方が代表的なモデルとして紹介されています。
肩甲上腕リズムは「2:1」と表現されることが多いですが、これはあくまで180°挙上時のおおよその平均的な比率にすぎません。近年の三次元動作解析(3D motion analysis)を用いた研究では、この比率が一定ではなく、以下のような要因によって変化することが報告されています。
- 角度によって変わる:挙上初期・中期・後期で肩甲骨と上腕骨の比率は一定ではなく、特に挙上後期(120°以降)ほど肩甲骨の関与が大きくなる傾向が報告されています
- 運動平面によって変わる:肩甲骨面(scapular plane)挙上・前方挙上(屈曲)・側方挙上(外転)など、動作を行う平面によっても比率が異なるとされています
- 個人によって変わる:年齢、性別、筋力、可動域、測定方法(X線・電磁気センサー・光学式モーションキャプチャなど)によって報告される数値にはばらつきがあります
「2:1になっているかどうか」を厳密に数値で判定することは臨床上あまり現実的ではありません。それよりも、挙上のどの角度帯で肩甲骨の動きが乏しくなるか、上腕骨側の代償がどのタイミングで出現するかという、角度に応じた質的な変化を観察する視点の方が臨床的な価値が高いと考えられます。
⑤ 肩甲骨では何が起きている?
肩関節挙上時、肩甲骨(肩甲胸郭関節)では以下の3つの動きがほぼ同時に生じているとされています。
| 動き | 内容 |
|---|---|
| 上方回旋 | 肩甲骨の下角が外側・上方へ回転し、関節窩が上を向く |
| 後傾(posterior tilt) | 肩甲骨の下角が胸郭から離れるように後方へ傾く |
| 外旋(external rotation) | 肩甲骨の内側縁が胸郭に対して外側へねじれる |
この3つの動きは、いずれも肩峰の位置を上腕骨頭から遠ざける方向に働くと考えられています。裏を返せば、上方回旋・後傾・外旋のいずれかが不足すると、挙上時に肩峰下スペースが狭くなりやすく、インピンジメントのリスクにつながる可能性があります。
鎖骨との連動
肩甲骨は鎖骨を介して肩鎖関節(AC)・胸鎖関節(SC)と連動しながら動くため、肩甲骨だけが独立して運動しているわけではありません。肩甲骨が上方回旋すると、それに連動して鎖骨(SC関節を軸とした動き)にも以下の変化が生じるとされています。
| 鎖骨の動き | 内容 |
|---|---|
| 挙上 | 鎖骨の外側端が上方へ持ち上がる |
| 後方回旋 | 鎖骨がその長軸まわりに後方へ回旋する |
| 後退 | 鎖骨の外側端が後方へ引かれる |
鎖骨後方回旋の役割については研究間で解釈が分かれる部分もありますが、鎖骨が肩甲骨の動きに追随して連動していること自体は複数の運動学研究で共通して報告されています。「肩甲骨が動く」という現象の裏側では、AC関節・SC関節を介して鎖骨も常に一緒に動いている、という理解が肩関節複合体を捉えるうえで重要です。
⑥ 上腕骨では何が起きている?
肩甲上腕関節では、外転(または屈曲)と同時に、上腕骨の外旋が生じるとされています。
なぜ外旋が必要なのか
上腕骨頭には大結節という骨の隆起があります。腕を内旋位のまま真上に挙げようとすると、この大結節が肩峰に衝突しやすくなります。挙上に伴って上腕骨が外旋することで大結節が後方へ回避し、肩峰下スペースを通過しやすくなると説明されています。
肩峰下インピンジメントとの関係
腱板は上腕骨頭を関節窩の中央に引き付ける働き(求心位の保持)を担い、肩甲骨は上方回旋・後傾によって肩峰下スペースを確保する役割を担っています。この「腱板による求心位保持」と「肩甲骨による肩峰下スペース確保」という両者の協調が崩れることで、インピンジメントが生じやすくなると考えられています。
上腕骨の外旋が不十分なまま挙上を繰り返すと、大結節や腱板(特に棘上筋腱)が肩峰と繰り返し接触し、肩峰下インピンジメント症候群につながる可能性があると報告されています。臨床では「肩が痛くて挙げられない」患者さんに対し、外旋の可動性や誘導、腱板による求心位保持機能も含めて評価することが望ましいと考えられます。
⑦ 関与する筋肉
肩甲上腕リズムには、肩甲骨を動かす筋群と、肩甲上腕関節を動かす筋群が同時に関与しています。
| 筋肉 | 役割 |
|---|---|
| 前鋸筋 | 肩甲骨の上方回旋・後傾 |
| 僧帽筋上部 | 肩甲骨の挙上(吊り上げ) |
| 僧帽筋下部 | 肩甲骨の下制・上方回旋の補助 |
| 僧帽筋中部 | 肩甲骨の内転・固定 |
| 棘上筋 | 挙上初期の外転始動 |
| 三角筋 | 肩甲上腕関節の外転 |
| 棘下筋 | 上腕骨の外旋 |
| 小円筋 | 上腕骨の外旋 |
特に前鋸筋と僧帽筋(上部・下部)は「フォースカップル」と呼ばれる形で協調し、肩甲骨を安定させながら上方回旋させています。このどれか一つでも筋出力が低下すると、肩甲骨の動きのバランスが崩れ、他の筋が代償的に働くことになります。
⑧ 筋電図(EMG)の知見
表面筋電図を用いた研究では、挙上角度によって各筋の活動パターンが異なることが報告されています。あくまで研究間でばらつきはあるものの、代表的な傾向を図と表にまとめました。
筋活動パターンの概念図
※本図はLudewig、Coolsらの複数の研究を参考に、肩関節挙上時の代表的な筋活動の傾向を模式化した概念図です。実際のEMG波形や数値を示したものではありません。EMGは%MVIC・正規化EMG・RMSなど算出方法によって値の性質が異なり、絶対値として比較できるものではないため、縦軸はあくまで相対的な活動レベルの傾向を表しています。
※筋活動パターンは課題(屈曲・外転・肩甲骨面挙上など)、測定方法、負荷条件、研究対象によって変化します。
| 筋肉 | 活動パターンの傾向 |
|---|---|
| 前鋸筋 | 90°以降で活動が急増するとの報告 |
| 僧帽筋下部 | 90°以降で活動が急増するとの報告 |
| 僧帽筋上部 | 挙上初期から活動し、角度が増すにつれて緩やかに活動が増加するとの報告 |
| 棘上筋 | 挙上開始直後から活動が高まり、その後も比較的高い活動を維持するとの報告 |
| 三角筋 | 30°以降で活動が増加するとの報告 |
この知見を臨床に当てはめると、「挙上90°を超えたあたりから肩がすくむ・肩甲骨が動かない」という訴えの背景には、本来この角度帯で急増するはずの前鋸筋・僧帽筋下部の活動が十分に得られていない可能性がある、という仮説を立てることができます。角度帯ごとにどの筋の働きが期待されるかを知っておくと、代償動作が出るタイミングから原因筋を推測する手がかりになります。
⑨ 肩甲上腕リズムが崩れるとどうなる?
何らかの原因で肩甲骨の動きが不足すると、その分を上腕骨(肩甲上腕関節)側の過剰な動きで代償しようとする現象が生じます(以下は理解しやすくするための模式例であり、実測値ではありません)。
この代償パターンはあくまで一般的な傾向であり、実際には個人・疾患によって崩れ方は様々です。数値は理解を助けるための目安として捉えてください。
⑩ 脳卒中ではなぜ肩が上がるのか
脳卒中片麻痺で腕を挙げようとすると肩がすくみ上がる現象は、多くの場合、体幹・肩甲骨まわりの近位部の不安定性を、上部僧帽筋という遠位の代償筋で補おうとした結果として生じると考えられています。麻痺側の腕を「使いたい」という運動企図そのものは正常であり、これは脳が到達可能な運動戦略を選択した結果とも言えます。
肩のすくみ(上部僧帽筋の過活動)は、単なる悪癖として抑え込むべき現象ではなく、体幹・肩甲骨の安定性が不十分な中でも何とか腕を挙げてタスクを遂行しようとする、身体にとって合理的な代償戦略の一つと捉えることができます。抑制するだけでなく、なぜその代償が必要になっているのか、根本原因にアプローチする視点が重要です。
脳卒中で肩が上がるまでの流れ
- 肩が上がる(肩甲骨挙上位での代償パターン)
- 肩峰下インピンジメント
- 肩関節周囲の疼痛
- 可動域制限
- リーチ動作(手を伸ばす動作)の低下
体幹不安定性の影響
体幹は上肢運動の土台であり、体幹のコントロールが不十分だと、上肢を挙げる際に近位から遠位へと力を伝えるための固定点が得られにくくなると報告されています。座位・立位でのリーチ動作では特に体幹の代償(体幹の側屈・回旋)と肩甲帯の代償が同時に出現しやすいとされています。
肩甲骨固定不良の影響
肩甲骨が胸郭上で安定していないと、上腕骨を動かすための「土台」が不安定になり、上腕骨頭の求心位保持が難しくなる可能性があります。これは腱板機能の低下とも関連することが指摘されています。
前鋸筋の機能低下
前鋸筋は肩甲骨の上方回旋・後傾を担う中心的な筋であり、脳卒中後は筋緊張異常や筋出力低下により活動が乏しくなりやすいと報告されています。前鋸筋の機能低下は、翼状肩甲(Winging Scapula)様の所見として観察されることもあります。
下部僧帽筋の機能低下
下部僧帽筋は肩甲骨を下制させながら上方回旋を補助する役割を持ちます。この筋の活動が乏しいと、上部僧帽筋の相対的な優位性がさらに強まり、肩甲骨挙上位での代償パターンが助長される可能性があります。
⑪ 肩関節疾患ではどう崩れる?
脳卒中に限らず、肩関節そのものの疾患でも肩甲上腕リズムは特徴的な崩れ方をすることが報告されています。
| 疾患 | 肩甲上腕リズムの崩れ方(傾向) |
|---|---|
| 腱板断裂 | 棘上筋などの機能低下により挙上初期から上部僧帽筋・肩甲骨挙上での代償が出現しやすいとされる |
| 肩峰下インピンジメント症候群 | 疼痛回避のため肩甲骨の上方回旋・後傾が乏しくなる代償パターンが報告される |
| 凍結肩(五十肩) | 関節包の拘縮により肩甲上腕関節の可動域が制限され、代償的に肩甲骨の動きが早期から・過剰に生じやすいとされる |
| 肩甲骨ジスキネジア | 肩甲骨の位置異常・運動異常そのものが肩甲上腕リズムの破綻の主原因となる |
⑫ 肩甲骨ジスキネジアとは
肩甲骨ジスキネジア(Scapular Dyskinesis)とは、肩甲骨の位置や動きに認められる異常の総称です。Kiblerらによって、視診による分類(タイプ分類)が提唱されています。
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| Type Ⅰ | 下角が突出(前鋸筋機能低下が疑われる) |
| Type Ⅱ | 内側縁全体が突出(僧帽筋中部・前鋸筋機能低下が疑われる) |
| Type Ⅲ | 上角が挙上し肩甲骨全体が挙上位(僧帽筋上部の過活動が疑われる) |
実際の臨床では、単一のタイプに明確に分類できないケースも多く、視診による分類の信頼性についても議論があると報告されています。分類そのものよりも、「どの動きが不足し、どの筋が代償しているか」という機能的な視点で捉えることが臨床的には重要です。
⑬ 評価方法
肩甲上腕リズムの評価では、まず全体の動きの流れを大まかに観察し、そのうえで個別のテストで原因を絞り込んでいく順序が推奨されます。
臨床で使う代表的な評価
| 評価法 | 概要 |
|---|---|
| Scapular Assistance Test(SAT) | 検者が肩甲骨の上方回旋を徒手的に介助しながら挙上させ、疼痛や可動域が改善するかを確認するテスト |
| Scapular Retraction Test(SRT) | 検者が肩甲骨を安定化(内転・固定)させた状態で挙上時の筋力や疼痛の変化を確認するテスト |
| Lateral Scapular Slide Test | 複数の上肢挙上肢位で肩甲骨下角と脊柱間の距離を左右比較し、非対称性を評価する方法 |
| 肩甲骨の視診による観察 | 安静時・運動時の肩甲骨の位置異常(前述のType Ⅰ〜Ⅲ様の所見)を確認 |
| 動画撮影による評価 | 正面・背面から複数回の挙上動作を撮影し、リズムの再現性やタイミングのズレをスロー再生で確認 |
⑭ リハビリテーション
肩甲上腕リズムの再学習を目的としたリハビリは、遠位(肩関節)からではなく、近位(姿勢・体幹・肩甲骨)から段階的に進めることが望ましいとされています。
①姿勢・②体幹の安定化
座位・立位のアライメントが崩れた状態で肩甲骨のエクササイズだけを行っても、土台が不安定なままでは効果が限定的になりやすいと考えられます。まず座位保持・体幹の抗重力伸展、必要に応じて上肢での荷重練習(プッシュアップ動作の準備段階など)から始めることが推奨されます。
③肩甲骨のエクササイズ
前鋸筋の促通:
- Wall Slide:壁に前腕を当て、肩甲骨の上方回旋を意識しながら腕をゆっくり上下にスライドさせる
- Push-up Plus:四つ這いまたは壁での軽い腕立て姿勢から、最後に肩甲骨を胸郭から離すように押し出す
- Dynamic Hug:セラバンドを使い、両腕で抱きしめるように前方へ押し出しながら肩甲骨を前方突出させる
下部僧帽筋の促通:
- Prone Y:うつ伏せで腕をY字方向に軽く挙上し、肩甲骨を下制・内転させる
- Y Exercise:立位・座位でも実施可能なバリエーションとして、軽負荷から開始する
肩甲骨可動域の獲得:
- Clock Exercise:肩甲骨を時計の文字盤に見立て、上下・左右・斜め方向へ意識的に動かす運動
④肩関節・⑤リーチ・⑥巧緻動作
肩甲骨のコントロールがある程度得られてきた段階で、肩関節可動域練習、リーチ動作練習、さらに箸操作・ボタン操作などの巧緻動作練習へと段階的に進めていきます。近位が安定して初めて、遠位の操作性が引き出しやすくなると考えられています。
重症度別のアプローチ
肩甲骨の自動運動がほとんど出ない場合は、他動的な肩甲骨モビライゼーション、座位での体幹・肩甲帯の荷重練習を中心に、無理な自動挙上練習は避けます。
肩甲骨の動きが部分的に出現する段階では、Wall Slideやセラバンドを用いたDynamic Hugなど、低負荷での前鋸筋・下部僧帽筋の促通運動を中心に進めます。
肩甲骨コントロールが概ね獲得できている場合は、Push-up PlusやProne Yなど負荷を上げた運動に加え、箸・ペグ操作などの巧緻動作課題へ発展させていきます。
ここで紹介した運動はあくまで一般的な進め方の一例です。肩関節の可動域制限や疼痛がある場合には症状を悪化させることがあるため、個人差が大きい点をふまえ、無理のない範囲で実施することが大切です。
⑮ エビデンス(参考文献の紹介)
肩甲上腕リズムおよび肩甲骨ジスキネジアに関する代表的な研究者・レビューとして、以下のようなものが知られています。
- Kiblerらによる肩甲骨ジスキネジアの概念整理・分類
- Ludewigらによる三次元動作解析を用いた正常肩甲骨運動の報告
- McClureらによる肩甲上腕リズムの角度帯別比率に関する研究
- Coolsらによる肩甲骨リハビリテーション(前鋸筋・下部僧帽筋の促通運動)に関するレビュー
肩甲上腕リズムの具体的な比率や崩れ方については研究間で報告にばらつきがあり、測定方法(放射線学的手法・電磁気センサー・三次元動作解析など)によっても数値が異なることが指摘されています。本記事の数値はあくまで代表的な目安としてご参照ください。
まとめ
肩甲上腕リズムは、肩甲骨(肩甲胸郭関節)と上腕骨(肩甲上腕関節)が協調しながら、可動域の確保とインピンジメントの回避を両立させる仕組みであり、その背景にはAC関節・SC関節を介した鎖骨の連動を含む肩関節複合体(Shoulder Complex)全体の協調運動があります。「2:1」という数値はあくまで代表的な目安にすぎず、角度・平面・個人によって変化する点に注意が必要です。このリズムが崩れると、上腕骨側の過剰な代償や肩峰下スペースの狭小化につながる可能性があり、脳卒中片麻痺による肩のすくみ上がりや、腱板断裂・インピンジメント・凍結肩といった肩関節疾患とも密接に関わっています。
特に重度の片麻痺の患者さんでは、肩のすくみ(上部僧帽筋の代償)がなければそもそも腕を挙げてADLを遂行できない場合もあります。リハビリの目的は常に代償を完全に消し去ることではなく、機能回復を優先する時期と、今ある代償パターンをうまく活かして生活動作を成立させる時期とを、患者さんの状態に応じて見極めることにあると考えられます。







