【専門職が徹底解説】脳卒中後遺症リハビリにおける「立位荷重」の重要性と「長下肢装具」の活用法
Contents
✅ はじめに
脳卒中(脳梗塞や脳出血)の後遺症として最も多いのが、片麻痺による運動・感覚機能の障害です。
そのリハビリにおいて重要なのが、「立位姿勢での麻痺側下肢への荷重練習」。これは単なる立ち方の練習ではなく、神経回路の再編成(可塑性)を促す根幹的なアプローチです。
また、荷重練習の安全性と効果を高めるためには、「長下肢装具(KAFO:Knee Ankle Foot Orthosis)」の導入がカギとなるケースも多く存在します。
本記事では、脳卒中後のリハビリにおける「立位荷重」と「長下肢装具」の意義を、専門職(作業療法士・理学療法士)向け視点でわかりやすく解説していきます。
🧠 脳卒中と片麻痺:リハビリの課題とは?
脳卒中により、運動・感覚をつかさどる大脳皮質や皮質脊髄路が損傷すると、以下のような症状が現れます。
- 片麻痺(下肢の筋力低下・運動不能)
- 感覚障害(足底の感覚低下、位置覚の喪失)
- バランス機能低下(立位でのふらつき、転倒)
- 姿勢保持の困難(立ち上がりや立位保持ができない)
これらの機能回復には、「立位姿勢での下肢荷重練習」が不可欠です。
🔽 【本題】なぜ「立位での荷重」が回復に重要なのか?
① 神経可塑性を促進する感覚入力
- 荷重によって、足底や膝関節から固有感覚や触圧覚が脊髄~大脳皮質へ伝達されます。
- これが「使っていない麻痺側の脳領域」を再活性化する重要な刺激になります。
🔬 エビデンス:
- Sullivan et al. (2007):感覚刺激を伴う立位練習で、歩行回復が促進された。
- Nudo RJ et al. (1996):反復刺激と感覚入力により、皮質マップが再構成されることを示唆。
② 体幹と下肢の協調運動の再学習
- 荷重は足から骨盤、体幹へと重力負荷を伝える重要な動作。
- 麻痺側に体重をかけることで、体幹の安定性が高まり、バランス能力や立位保持能力の改善につながります。
③ 歩行の前段階としての訓練
- 歩行の立脚期=下肢への荷重保持が基礎。
- 立位で麻痺側に体重をかける訓練を積むことで、歩行時の体重移動がスムーズになり、対称的な歩行パターンを再獲得しやすくなります。
🦵 長下肢装具(KAFO)の役割:なぜ必要なのか?
✅ 長下肢装具とは?
膝関節から足関節までを支持する装具で、自立での荷重保持や膝折れが危険なケースに使われます。

🔧 主な目的
- 立位姿勢を安定化させ、安全に荷重練習を可能にする。
- 膝関節の過屈曲や過伸展を防ぎ、関節構造の損傷予防。
- 長時間の立位練習が可能になることで、リハビリ量と質を向上。
🔍 使用が有効なケースの例
- 麻痺側膝の支持性が低く、立位で膝折れが生じる
- 足関節底屈が強く、ヒールコンタクトが取れない
- 重度の感覚障害により、麻痺側荷重が極端に困難
🧪【装具使用に関する研究】
- Hesse et al. (1999):早期のKAFO導入で、立位保持と歩行獲得時期が短縮。
- Suzuki et al. (2013):長下肢装具を使用した荷重練習により、歩行速度・対称性が有意に改善。
🏃 実際の荷重訓練プログラム例(OT・PT向け)
フェーズ | 目的 | 方法 |
---|---|---|
第1段階 | 荷重感覚を得る | KAFO装着+平行棒内静的立位保持(5分×3セット) |
第2段階 | 荷重移動を学習 | 鏡フィードバックを使用し左右への重心移動練習 |
第3段階 | 歩行動作の導入 | KAFO装着下でのステップ運動・歩行補助訓練 |
第4段階 | 装具卒業の準備 | KAFOからAFO(短下肢装具)への段階的移行 |
🧩 長下肢装具使用における注意点
- 長期間の使用による廃用性筋萎縮に注意
- 麻痺側の「使わない学習」を防ぐために、併行して能動的訓練が必要
- 医師・義肢装具士・PT/OTのチーム連携で適切なタイミングでの調整を
✅ まとめ:立位荷重+長下肢装具=回復の第一歩
- 立位荷重は、感覚入力・姿勢制御・歩行機能再建の基盤となるリハビリです。
- しかし、重度麻痺例では安全な荷重が難しく、長下肢装具の併用が機能回復への足がかりになります。
- 荷重と支持をバランスよく行うことが、脳卒中後の自立支援につながります。
📚 参考文献・エビデンス
- Sullivan KJ, et al. (2007). Stroke rehabilitation: enhancing motor recovery through sensory stimulation. Arch Phys Med Rehabil.
- Hesse S, et al. (1999). Treadmill training with partial body weight support in hemiparetic patients. Stroke.
- Suzuki K, et al. (2013). Effect of early KAFO use in post-stroke gait training. J Stroke Cerebrovasc Dis.
- Nudo RJ, et al. (1996). Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct. Science.