【保存版】作業療法士が解説する「座位保持」の考え方と実践 ― 姿勢が変わると生活が変わる

 はじめに:座位保持とは何か?

座位保持とは、単に「椅子に座っていられること」ではなく、その人にとって安全かつ機能的で、できるだけ疲れにくい姿勢を長時間維持できるようにすることを指します。
医療・リハビリ・介護の現場では「ポジショニング」「シーティング」などと呼ぶこともあり、作業療法士・理学療法士の重要な専門領域です。

特に以下のような方にとって、座位保持は生活の質(QOL)を大きく左右します。

  • 脳卒中後の片麻痺や高次脳機能障害がある方
  • 脊髄損傷や筋疾患、難病(ALS など)の方
  • 重度心身障害児者、発達障害を持つお子さん
  • 認知症やフレイルが進行した高齢者

本記事では、作業療法士の視点から、座位保持の定義・原因・メカニズム・よく見られる症状・実践的な解決策を体系立てて解説します。

医療職(PT/OT)だけでなく、ご家族や介護職の方にも理解しやすい内容を意識しています。

1. 用語の定義:座位保持・ポジショニング・シーティング

1-1. 「座位保持」の定義

座位保持とは、「座った姿勢(座位)を、身体機能や環境に応じて、安全・快適・機能的に維持すること」を意味します。
ここでいう「機能的」とは、次のような活動がしやすい姿勢であることです。

  • 食事や水分摂取がしやすい
  • テレビを見る、会話をするなどコミュニケーションがとりやすい
  • 手足を動かしてリーチ動作や作業がしやすい

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1-2. ポジショニングとの違い

ポジショニングは、ベッド上や椅子上を含めた「身体のポジション(位置と姿勢)を調整すること」の総称です。
座位保持は、ポジショニングの中でも、「座った姿勢に特化した支援」と考えると理解しやすいでしょう。

1-3. シーティング(座位環境の設計)

シーティングとは、車いすや椅子、クッション、背もたれなどを組み合わせて、その人に合った座位環境を「設計」することです。
評価からフィッティング、調整までを含めた包括的なプロセスであり、作業療法士・理学療法士の専門スキルが求められます。

2. 座位保持が難しくなる原因

2-1. 身体機能に関する原因

座位保持の困難さは、多くの場合、複数の要因が重なって生じます。代表的な身体機能上の要因は以下の通りです。

  • 筋力低下:体幹や頸部、骨盤周囲の筋力が弱く、姿勢を支えきれない
  • 筋緊張異常:痙性(つっぱり)や固縮により、特定の方向へ姿勢が引っ張られる
  • 関節拘縮・変形:股関節・膝関節・脊柱の可動域制限が姿勢に影響
  • 感覚障害:自分の身体の位置や傾きを感じにくく、ずれや崩れに気づきにくい
  • 痛み:腰痛・関節痛などから、無意識に楽な(しかし非対称な)姿勢をとる

2-2. 認知機能・注意機能に関する原因

特に脳血管障害や認知症では、以下のような高次脳機能の問題が座位保持を難しくします。

  • 半側空間無視:片側を認識しにくく、体重が一方に偏る
  • 身体失認:麻痺側の存在を認識しづらく、支持に使えない
  • 注意障害:座位を安定させるための注意を持続できない
  • 判断力低下:危険な姿勢やずれに気づかない、自己修正ができない

2-3. 環境・用具に関する原因

身体機能だけでなく、「座らせられている環境」も大きく影響します。

  • 椅子や車いすのサイズ不適合:座面が高すぎる・低すぎる、幅が広すぎる・狭すぎる
  • クッションや背もたれの選択ミス:柔らかすぎて沈み込む、硬すぎて痛い
  • テーブルの高さ・奥行き:高すぎて肩が上がる、遠すぎて前傾を強いられる
  • 足台の不使用:足がぶらぶらし、骨盤が不安定になる

2-4. 介助方法に伴う問題

介護現場では「安全に早く座らせること」が優先されがちですが、無意識のうちに以下のような問題が起こることがあります。

  • 麻痺側を十分に支えず、一側への傾きを助長してしまう
  • お尻を浅く座らせたまま放置し、滑り座りを招く
  • ずれ落ちを腕や肩を引っ張って直そうとし、肩関節の損傷リスクを高める

3. 座位保持のメカニズム:なぜ崩れるのか?

3-1. 骨盤・体幹・頭部のアライメント

座位保持を理解する際のキーワードは、アライメント(alignment:整列)です。
安定した座位では、以下の順で整列していることが望ましいとされています。

  • 骨盤の位置:前傾〜中間位で、左右の高さがそろっている
  • 脊柱(体幹)のカーブ:生理的なS字カーブが保たれている
  • 頭部の位置:体幹の上に、過度な前屈・後屈・側屈なく乗っている

骨盤が後傾すると(背もたれにもたれ込むような姿勢)、背中が丸まり、頭が前に出て、視線が下がり、呼吸や嚥下にも悪影響が生じます。

3-2. 支持基底面と重心

姿勢の安定性は、支持基底面(身体を支えている面積)と重心位置によって決まります。座位では、次の部分が主な支持基底面です。

  • 両側の坐骨(お尻)
  • 両足底(足の裏)
  • 必要に応じて、背もたれや肘掛け

重心が支持基底面から大きく外れると、身体は倒れそうになり、筋力や筋緊張によって必死に補正しようとするため、疲れやすく、痛みも出やすくなります。

3-3. 筋緊張のバランス

安定した座位では、「必要な筋肉が必要なだけ働き、不要な緊張は抑えられている状態」です。
しかし、脳損傷や脊髄損傷などでは、以下のような状態が起こります。

  • 痙性の亢進:特定の筋群が強く緊張し、姿勢を引き込む
  • 抗重力筋の弱さ:重力に対して身体を持ち上げる力が不足
  • 共同運動パターン:随意運動と連動して、不要な部位も一緒に動いてしまう

これらが組み合わさると、「まっすぐ座りたいのに、無意識に身体がねじれる・倒れる」といった現象が起こります。

4. 座位保持不良によって生じる症状・問題

4-1. 身体的な問題

  • 褥瘡(じょくそう):お尻・仙骨部・坐骨部・背中などへの圧迫が集中し、皮膚や組織が傷つく
  • 疼痛:腰痛、背部痛、肩こり、股関節痛など
  • 拘縮・変形の進行:長期間の不良姿勢により、脊柱側弯や股関節屈曲拘縮が悪化
  • 呼吸機能の低下:猫背姿勢により胸郭が広がりにくくなる
  • 嚥下障害の悪化:首が極端に前屈・後屈したり、左右に傾いたりすることで、むせ・誤嚥リスクが増大

4-2. 活動・参加への影響

  • 上肢機能の制限:テーブルまで遠くなる、肩がすくむ、手が届きにくい
  • コミュニケーションの制限:相手の顔が見えにくい、視線が合わない
  • 活動量の低下:座っているだけで疲れてしまい、活動への意欲も低下
  • 社会参加機会の減少:外出や行事への参加が困難になる

4-3. 精神・心理への影響

  • 自己効力感の低下:「ちゃんと座れない」「いつも介助が必要」という感覚
  • 抑うつ・意欲低下:姿勢が崩れることで「やる気が出ない」「恥ずかしい」と感じる
  • 行動・心理症状(BPSD)の増悪:認知症の方では、不快な姿勢が落ち着きのなさや徘徊を強めることもある

5. 座位保持のための評価と解決策

5-1. 座位保持の評価視点

座位保持を改善するには、まず原因を見極める評価が重要です。作業療法士・理学療法士は、次のようなポイントを系統的に評価します。

  • 骨盤の位置:前傾・中間・後傾、左右の傾き
  • 脊柱のカーブ:過度な円背、側弯の有無
  • 頭部の位置:前屈・後屈・側屈・回旋
  • 股関節・膝関節・足関節の角度:90°ルールに近づけられるか
  • 支持面:坐骨・足底・背もたれ・肘掛けの使われ方
  • 筋緊張・筋力:どこが過剰に緊張し、どこが弱いか
  • 認知・注意・視覚:半側空間無視や注意障害の影響

5-2. 基本となる「良い座位姿勢」の目安

一般的に推奨される座位姿勢の目安として、いわゆる「90°-90°-90°ルール」があります。

  • 股関節:約90°屈曲(骨盤が中間位〜やや前傾)
  • 膝関節:約90°屈曲(膝が前に出すぎない)
  • 足関節:約90°(足底全体が床または足台に接地)

これに加えて、

  • 骨盤は左右同じ高さで、坐骨が均等に座面に接している
  • 体幹は過度に丸まらず、軽く伸びている
  • 頭部は体幹の真上にあり、顔が正面を向いている

という状態を目指します。ただし、疾患や変形の程度によっては必ずしも90°にこだわらず、「その人にとっての最適解」を探ることが重要です。

5-3. 環境調整・シーティングの実践ポイント

① 椅子・車いすの選定と調整

  • 座面の高さ調整:足底がしっかり接地し、膝・股関節が約90°になる高さ
  • 座面の奥行き調整:膝裏に指2〜3本分の余裕を残しつつ、坐骨がしっかり支持される長さ
  • 座面の幅:左右1〜2cm程度の余裕があり、広すぎて身体が傾かない
  • 背もたれ:骨盤の位置を支えられる高さと形状かどうか

② クッション・背もたれ・サポート具の活用

  • 骨盤サポート:骨盤が後傾しないよう、座面後方のやや前方斜めの傾斜をつける、くさび型クッションを用いる等
  • 側方サポート:側屈しやすい方には、背もたれの左右にサポートパッドを配置
  • 頭部サポート:体幹保持が難しい場合は、ヘッドサポートで中間位を支える
  • 足台・フットサポート:床に足が届かない場合は、必ず足台を使用

③ テーブルとの位置関係

  • テーブルの高さは、肘を90°程度曲げて前腕を軽く乗せられる高さが目安
  • テーブルが高すぎると肩が挙上し、筋緊張の亢進や疲労の原因となる
  • テーブルが遠すぎると、前傾・滑り座りを招く

5-4. 介助方法の工夫

座位保持は、「どう座らせるか」だけでなく「どう座り直すか」も重要です。介助者が気をつけたいポイントを挙げます。

  • 深く座らせる:お尻をしっかりと座面の奥まで誘導し、骨盤が背もたれに近づくように
  • 麻痺側の支持:片麻痺の場合、麻痺側の下肢・体幹を意識して配置・支持する
  • 肩を引っ張らない:座り直しの際は、骨盤に近い部分(ズボンのウエスト周囲など)を支点として行う
  • 声かけと協力:「今から少し前に体を倒しますね」「足を少し引きましょう」など、本人の参加を促す

5-5. エクササイズ・リハビリテーションの方向性

環境調整と並行して、身体機能そのものを高めるアプローチも重要です。作業療法・理学療法では、以下のような内容が検討されます。

  • 体幹筋の強化:座位やベッド上でのバランストレーニング、リーチ動作など
  • 骨盤コントロール練習:骨盤の前傾・後傾を意識的に行う練習
  • ストレッチ・関節可動域訓練:股関節・ハムストリングスなど、座位に関与する筋群の柔軟性向上
  • 感覚・認知へのアプローチ:半側空間無視への視覚・体性感覚刺激、注意訓練など

これらは状態により大きく異なるため、必ず担当のPT/OTと相談し、安全に行うことが前提となります。

6. ご家族・介護職が現場でできる工夫

6-1. 日常でチェックしたいポイント

以下のようなポイントを日々観察し、「以前と違う」「座っているとすぐ疲れる」などの変化があれば、リハビリスタッフに相談しましょう。

  • 座るとすぐにお尻が前に滑ってくる
  • 頭が常に片側に倒れている
  • 食事中にむせやすくなった、表情がつらそう
  • 腰やお尻の痛みを訴えるようになった
  • お尻や背中に赤み(発赤)や皮膚トラブルが出てきた

6-2. 小さな調整で大きく変わるポイント

  • 足裏をしっかりつける:必要に応じて足台や雑誌を重ねた台を使用する
  • お尻の位置を整える:座る直後に「もう少し奥に座りましょう」と一声かけて、軽く前傾してもらいながらお尻を奥へ誘導
  • クッションの活用:背もたれとの隙間にタオルや小さなクッションを入れて、姿勢が安定する位置を探す
  • 定期的な姿勢リセット:長時間同じ姿勢を続けず、1〜2時間ごとに座り直しや休息を入れる

7. まとめ:座位保持は「生活の基盤」を整えること

座位保持は、「どう座っているか」という姿勢の問題にとどまらず、呼吸・嚥下・皮膚保護・活動性・心理状態など、生活全体に深く関わるテーマです。
原因は、身体機能・認知機能・環境・介助方法など多岐にわたり、一人ひとり異なります。

作業療法士・理学療法士は、評価とシーティング技術を用いて、その方にとって最適な座位を一緒に模索していきます。ご家族や介護職の方も、日常の小さな観察と工夫を重ねることで、座位の安定と生活の質向上に大きく貢献できます。

「なんとなく座りにくそう」「以前より姿勢が崩れてきた」と感じたら、それは座位保持を見直すタイミングかもしれません。決して「歳のせい」「病気だから仕方ない」と片付けず、ぜひ専門職と一緒に、より良い座り方・座らせ方を考えていきましょう。

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homereha

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