運動失調とは何か?病態・メカニズム・リハビリをエビデンスベースで徹底解説【保存版】
運動失調(ataxia)は、
「筋力低下や麻痺がないにもかかわらず、動作が不正確・ぎこちない」
という特徴を持つ神経症候です。
臨床では
- 小脳梗塞・出血
- 脊髄小脳変性症(SCD)
- 多発性硬化症
- 脳幹病変
などで頻繁に遭遇しますが、
「なぜ動きがズレるのか?」
「筋トレは意味があるのか?」
「どうリハビリすべきか?」
については、誤解されたまま介入されているケースも少なくありません。
本記事では、
👉 運動失調の本質を「運動制御システムの破綻」として捉え直し、
👉 最新の神経科学的知見とリハビリのエビデンスをもとに、
👉 現場で“何をすべきか”が分かる形で解説します。
運動失調とは?【定義と特徴】
運動失調の定義
運動失調とは、
随意運動における「速度・力・方向・タイミング」の調整が障害される状態
を指します。
重要なのは以下の点です。
- 筋力は保たれている
- 感覚入力も大きく障害されていない場合がある
- それでも「狙った通りに動かない」
つまり、出力系(筋)ではなく制御系(中枢)の問題です。
運動失調の主な症状
1. 測定障害(Dysmetria)
- 目標を行き過ぎる(過大運動)
- 手前で止まる(過小運動)
2. 分解運動(Decomposition)
- 本来連続すべき運動が分断される
- 関節ごとにカクカク動く
3. 協調運動障害
- 複数関節・筋群のタイミングが合わない
4. 企図振戦
- 動作終末で振戦が強くなる
5. 歩行失調
- 歩隔拡大
- ふらつき
- 方向転換困難
運動失調の病態メカニズム
― 小脳は「運動の司令塔」ではない ―
小脳の本質的役割
かつて小脳は
「運動を微調整する部位」
と説明されてきました。
しかし現在では、以下の役割が明確になっています。
👉 小脳は「運動の予測装置」
内部モデル理論(Internal Model)
内部モデルとは?
小脳は、
- 「こう動かせば」
- 「身体はこう反応する」
という予測モデル(内部モデル)を常に更新しています。
このモデルを使って、
- 実際の感覚フィードバックを待たずに
- 先回りして運動を調整
しています。

運動失調で起きていること
運動失調では、
- 内部モデルが壊れる
- 予測と実際の動きがズレる
- 修正が遅れる
結果として、
✔ 行き過ぎる
✔ タイミングが遅れる
✔ ガタガタした動きになる
という現象が生じます。
なぜ筋トレでは改善しないのか?
運動失調患者に対して
「筋力強化」を中心にしたリハビリを行っても、
- 動きの正確性は改善しない
- むしろ代償が強まる
ことが多く報告されています。
理由は明確です。
❌ 問題:筋力
⭕ 問題:予測・タイミング・誤差修正
つまり、エンジンではなく制御プログラムの問題なのです。
運動失調の評価【臨床で必須】
1. SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)
- 歩行
- 立位
- 指鼻試験
- 踵膝試験
などを評価
👉 SCDや小脳障害で高い信頼性
2. ICARS
- 姿勢・歩行
- 四肢運動
- 発語
- 眼球運動
👉 研究用途で多用
3. 観察で見るべきポイント
- 動作の「始まり」と「終わり」
- 視覚代償の有無
- スピードを落とすと改善するか
運動失調に対するリハビリの原則
原則①:筋力ではなく「誤差学習」
運動失調のリハビリは、
👉 正確に失敗させ、修正させる
ことが重要です。
原則②:視覚・体性感覚の活用
- 視覚フィードバック
- ライン・ターゲット提示
- ミラーセラピー
原則③:スピードを落とす
- ゆっくり動かすことで
- フィードバック制御を活用
エビデンスに基づく運動失調リハビリ介入
① 集中的協調運動訓練(ICOP:Intensive Coordination Training)
● エビデンス概要
- Ilg et al., 2009
- 小脳性運動失調患者に対し
4週間・集中的な協調運動訓練 - SARAスコアが有意に改善
- 効果は数か月持続
- 👉 現時点で最も強いエビデンスの一つ
● リハビリ内容の具体例
上肢(例)
- 指鼻試験を「ゆっくり・正確に」
- 目標物(コーン・ペットボトル)へのリーチ
- 肘伸展+前腕回内外を分解→統合
下肢(例)
- 踵‐膝試験をスピードを落として反復
- 椅子座位で
- 膝伸展 → 足部タッチ
- 目標位置を毎回変える
体幹・姿勢
- 座位でのリーチ(前・斜め・側方)
- 体幹回旋+上肢操作の組み合わせ
● 実施のポイント
- 量より質
- 1回30〜60分、週3〜5回
- 「できるスピード」ではなく
👉 “ズレを感じ取れるスピード” - 疲労が出る前に終了(代償防止)
② タスク特異的訓練(Task-specific Training)
● 理論背景
- Motor Learning理論
- 運動失調は
👉「内部モデルの再学習障害」 - よって
“意味のある動作そのもの”を繰り返す
● リハビリ内容の具体例
上肢ADL
- コップを口に運ぶ
- 軽い → 重い → 中身あり
- スプーンで豆・小物をすくう
- ボタン留め(大→小)
下肢・移動
- 方向転換を含む歩行
- 椅子⇄立位⇄方向転換
- 障害物またぎ(低→高)
● 実施のポイント
- 代償は最小限
- 体幹固定しすぎない
- 反対手で抑えない
- 「失敗→修正」を許容する
- 成功率100%を目指さない(70〜80%が目安)
③ 重り負荷(ウエイト)
● エビデンスの位置づけ
- 即時効果はあり
- 振戦・過大運動の振幅低下
- ❗ 長期的改善のエビデンスは限定的
● リハビリ内容の具体例
上肢
- 手首に 0.3〜0.5kg
- 目標リーチ・書字練習
- 食事動作の一部練習
下肢
- 足首に 0.5kg前後
- 足踏み・膝伸展
- 立位での一歩前出し
● 実施のポイント
- 常用しない
- 「動きを感じやすくする補助」として使用
- 外した後に
👉 動きがどう変わるかを確認 - 重すぎると協調性が悪化する
④ 視覚フィードバック訓練
● 理論背景
- 小脳障害では
予測制御 ↓ → フィードバック依存 ↑ - 視覚情報を学習の手がかりに使う
● リハビリ内容の具体例
上肢
- ターゲットリーチ(色付きマーカー)
- ミラーセラピー(左右対称動作)
- 線上なぞり書き
歩行・立位
- 床にテープでライン表示
- 歩幅・足位置を視覚化
- 障害物を「見る→避ける」
● 実施のポイント
- 視覚に頼りすぎない
- 徐々に
- ラインを消す
- 視線を上げる
- 👉 視覚は「学習補助」
⑤ バランス訓練+誤差拡大(Error Augmentation)
● 理論背景
- 小脳は
誤差情報を使って学習 - あえて誤差を大きくし
👉 修正を促す
● リハビリ内容の具体例
立位・歩行
- 不安定マット上での立位
- 重心を「行き過ぎる」課題
- 方向転換であえて狭いスペース
上肢
- 少し遠い目標にリーチ
- 目標をランダムに変更
- 角度をつけたターゲット配置
● 実施のポイント
- 転倒リスク管理は最優先
- 必ず
- 支持物
- 介助
- 「不安定=危険」ではなく
👉 制御学習の刺激
まとめ(臨床家向け要点)
| 介入 | 目的 | 注意点 |
|---|---|---|
| ICOP | 協調性の再学習 | 集中・質重視 |
| タスク特異 | 実用動作改善 | 代償最小 |
| ウエイト | 即時安定 | 常用しない |
| 視覚FB | 学習補助 | 依存させない |
| 誤差拡大 | 修正学習 | 安全管理 |
臨床での一言まとめ
運動失調のリハビリは
「筋力を上げること」ではなく
「ズレを感じて、直す練習」である。
まとめ|運動失調リハビリの本質
運動失調は、
❌ 筋力の問題
❌ 気合の問題
ではありません。
👉 運動予測と誤差修正の障害
です。
だからこそ、
- 筋トレ中心の介入ではなく
- 学習・フィードバック・反復
が必要になります。
結論
- 運動失調は小脳を中心とした運動制御障害
- 内部モデルの破綻が本質
- リハビリは協調運動・誤差学習・タスク特異性が鍵
- エビデンスはICOPを中心に蓄積中






