起立性低血圧とは?原因と仕組みをわかりやすく解説
朝起きて立ち上がったときや、椅子から立ち上がった瞬間に「クラクラする」「目の前が真っ白になる」といった経験はありませんか?
それはもしかすると 起立性低血圧(きりつせいていけつあつ) のサインかもしれません。
この記事では、起立性低血圧がなぜ起こるのか、原因や仕組みを詳しく解説します。

起立性低血圧とは?
起立性低血圧とは、座っている姿勢や寝た状態から立ち上がったときに、血圧が急に下がってしまう現象です。
具体的には、立位に移行してから3分以内に、
• 収縮期血圧(上の血圧)が20mmHg以上の低下
• または 拡張期血圧(下の血圧)が10mmHg以上の低下
がみられる状態をいいます。
よくある症状

• めまい、ふらつき
• 視界が暗くなる・ぼやける
• 動悸、吐き気
• 失神や転倒(特に高齢者)
起立性低血圧の原因は?5つの代表的な要因
1. 自律神経系の異常(神経原性起立性低血圧)

立ち上がったとき、通常は自律神経が血管を収縮させて血圧を保とうとします。
しかし、この調整がうまくいかないと、血圧が下がったままとなります。
主な疾患:
• パーキンソン病、レビー小体型認知症
→ 中枢の自律神経機能が障害されます
• 糖尿病性神経障害
→ 末梢神経がダメージを受け、血管の調節機能が低下
• 多系統萎縮症(MSA)
→ 重度の自律神経障害を伴い、立ちくらみや失神が特徴的です
• 脊髄損傷や末梢神経障害
これらの疾患があると、脳への血流が維持できず、めまいや転倒を招きやすくなります。
補足1:交感神経はどこから出ているのか?
交感神経は脊髄の**胸髄(Th1~L2)**から出ています。
• Th1〜T5h(上位胸髄):心臓や大血管の調整に関与
• Th6以上の損傷:全身の血管収縮反応に大きく関与
補足2:起立性低血圧が起こりやすい損傷レベル
損傷レベル | 起立性低血圧のリスク | 説明 |
Th6以上(特にC1~T5) | ✅ 非常に高い | 交感神経の中枢に近いため、自律神経の調節が広範囲に障害される。血管収縮ができず、血圧維持が困難。 |
Th6~Th12 | △ やや高い | 下半身の血管収縮は障害されるが、心拍数や上半身の血管反応は保たれる場合もある。 |
L1以下 | ❌ 低い | 交感神経の中枢には影響しにくいため、起立性低血圧は起こりにくい。 |
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補足3:なぜTh6が一つの目安になるのか?
• Th6以上の損傷では、心臓や上半身の血管を調節する交感神経の経路が遮断されるため、
立位での血圧維持が難しくなり、起立性低血圧や**自律神経性ショック(neurogenic shock)**が生じやすくなります。
• 特に**完全損傷(AIS AやB)**のケースでは、血圧調節機能の障害が顕著です。
2. 薬の副作用(薬剤性起立性低血圧)

多くの薬剤が血圧を下げたり、自律神経に影響を及ぼすことで、起立性低血圧を引き起こします。
代表的な薬剤:
• 降圧薬(特にα遮断薬、硝酸薬、利尿薬など)
→ 血管を広げたり、体内の水分を減らして血圧を低下させます
• 抗うつ薬(三環系抗うつ薬など)
• 抗パーキンソン薬、抗精神病薬
• 睡眠薬や抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)
➡ 特に高齢者では複数の薬を服用していることが多く、副作用としての起立性低血圧は見落とされがちです。
3. 血液量の減少(循環血液量の低下)

体内の水分や血液が不足していると、立ち上がったときに心臓に戻る血流が減ってしまい、血圧を維持できなくなります。
主な原因:
• 脱水(発熱、下痢、嘔吐、水分摂取不足)
• 出血(消化管出血、外傷、手術後など)
• 利尿薬の使用(水分を排出しすぎてしまう)
➡ 特に夏場は高齢者の脱水による起立性低血圧が増えます。
4. 加齢による体の変化(生理的な要因)

年齢を重ねると、自律神経の反応が鈍くなり、血管がうまく収縮しなくなります。また、心臓のポンプ機能もやや低下しやすくなります。
高齢者に特有の要素:
• 動脈硬化により血管の柔軟性が低下
• 筋力の低下により下肢から心臓への血流が戻りにくくなる
• 服用薬が多い(多剤服用)
➡ 高齢者では、複数の原因が重なって起立性低血圧が起きやすくなっています。
5. 長期間の臥床や活動量の低下

入院や病気でベッド上の生活が続くと、筋肉(特に下肢)の筋ポンプ機能が弱まります。
すると、立ち上がっても重力に逆らって血液を心臓に戻す力が働かず、低血圧を招きます。
具体例:
• 手術後の安静期間
• 寝たきりの状態
• 認知症による活動性低下
➡ リハビリや早期離床によって予防・改善が可能です。
起立性低血圧の対処と予防法は?
原因によって対応は異なりますが、共通して意識すべき点はこちらです
✅ ゆっくり立ち上がる
→ 寝た状態から急に立ち上がらず、まずは座ってから数秒待ってから立ち上がるようにしましょう。
✅ 水分・塩分をしっかりとる(医師の指示に従って)
→ 脱水を防ぐことが重要です。
✅ 弾性ストッキングの使用
→ 下肢の血液が心臓に戻りやすくなります。
✅ 寝具やベッドの工夫
→ 頭側を少し高くすることで、起きたときの血圧変化を緩やかにできます。
✅ 筋力維持・運動習慣
→ 特に下肢筋のトレーニングは、筋ポンプ機能の維持に役立ちます。
まとめ
起立性低血圧は、自律神経の働き・服薬・脱水・加齢・活動性低下など、さまざまな要因が重なって生じます。
一見軽いめまいでも、転倒や骨折につながるリスクがあるため、特に高齢者や神経疾患をお持ちの方は注意が必要です。
症状が気になる場合は、かかりつけ医や専門職(理学療法士・作業療法士など)に相談することをおすすめします。
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