認知症の方の「家に帰ります」—帰宅願望の背景・対応・予防法
在宅介護や施設でのケアの現場で、認知症の方がよく口にする言葉があります。

「家に帰ります」
「もう帰らないといけません」
「子どもが待っているから」
こうした“帰宅願望”は、本人にとって切実な感情の表れであり、対応に困るご家族や介護職の方も多いことでしょう。
今回は、帰宅願望が出る背景と対応、そして事前にできる予防法についても解説します。
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■ 帰宅願望とは?

「帰宅願望」とは、認知症の方が現在生活している場所を「自分の家ではない」と感じ、「元の家に帰りたい」と言い出すことを指します。
中には、玄関に向かって歩き出したり、外に出ようとする行動(徘徊)に発展するケースもあります。
■ 帰宅願望が起こる5つの背景
1. 記憶の混乱と昔の記憶の活性化
最近の記憶が曖昧になり、昔住んでいた“実家”などが記憶の中心になります。
今の住まいを「見知らぬ場所」と感じてしまうのです。

2. 環境の違和感や不安
自分にとって“落ち着かない”空間や、まわりの人との関係が希薄だと、心理的に不安定になります。

3. 役割を果たさねばという責任感
「子どもが帰ってくる」「ご飯を作らないと」など、過去の生活の“責任”を思い出して行動に出ることがあります。

4. 時間・場所の見当識障害
今が何時なのか、どこにいるのかが分からず、
「夕方だから家に帰る時間」といった生活リズムに沿って行動してしまうことがあります。

5. 感情的な孤独感
自分の存在が認められていない、愛情が感じられないとき、人は本能的に「安心できる場所=家」に戻りたくなるのです。

■ 帰宅願望が出たときの対応
1. 否定しないで共感する
✕「ここが家ですよ」→ 否定されたと感じて不安が強まる
〇「帰りたいんですね。どんな家でしたか?」→ 気持ちに寄り添う
2. 話題をそらす・気分転換を促す
例:「お茶でも飲んでからにしませんか?」、「ちょっと一緒にお散歩しましょうか」
3. 思い出話で共感を深める
「昔のお家はどんな間取りでしたか?」「台所には何がありましたか?」と懐かしい記憶に寄り添うことで安心感が生まれます。
4. 環境の調整
本人が“ここは安心できる場所”と感じられるよう、昔の写真や愛用品を飾ったり、日常のリズムを整えることも効果的です。
■ 帰宅願望を“予防する”には?
帰宅願望は、特定の時間帯や状況で起こりやすい傾向があります。以下のような事前の工夫が、帰宅願望の出現頻度を減らす助けになります。
◉ 予防の工夫ポイント
方法 | 内容 | 期待できる効果 |
午後の散歩や外気浴 | 夕方前(15時前後)に散歩に行く | 「夕暮れ症候群」の時間帯に心身が落ち着く |
昔の音楽やテレビ番組を流す | ご本人が若い頃に親しんだ音楽など | 安心感・懐かしさを与える |
日課(ルーティン)の明確化 | 毎日同じ時間にお茶・おやつなど | 時間感覚を補い、見当識を安定させる |
家庭的な環境を演出する | 食器・家具・写真・方言など | 「自分の居場所感」が高まる |
午後に軽い作業や役割を用意する | 洗濯物たたみ、テーブル拭きなど | “自分は役に立っている”という実感を得られる |
■ 「帰りたい」の奥にある気持ちを理解しよう
「帰宅願望」は、単なる“場所”への執着ではなく、安心・愛着・役割・孤独感といった多くの感情が複雑に絡み合った心の叫びです。
その言葉の奥に、「ここにいてもいいんだ」「私は大事にされている」と思える体験が少しでも増えれば、自然と帰宅願望も和らいでいくことがあります。
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まとめ
帰宅願望が出たときのポイントは…
✅ 否定せず共感する
✅ 話題や行動で気持ちをそらす
✅ 過去の記憶を共有して安心感を与える
✅ 環境を整え、安心できる日常をつくる
✅ 予防的に“夕方前の活動”や“日課づくり”を取り入れる
🌿 介護は「正解」よりも「寄り添い」が大切です。
目の前の「帰りたい」という言葉を、そのまま否定せず、「この方は今、どんな気持ちなのか?」と考えるだけでも、その人の安心につながる第一歩になります。
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