肩を上げたり外にひねると痛い…その原因は?~解剖学と神経支配からひも解く~

「腕を上にあげようとしたら、肩の外側がズキッと痛い…」


「洗濯物を干す時や、髪を結ぶ時に肩の外側に鋭い痛みが走る…」

このような肩関節挙上や外旋時の痛みは、多くの人が経験する症状です。

特に40代以降に多く見られますが、その原因は単なる「肩こり」ではなく、肩関節の構造や神経支配の特徴に深く関係しています。

今回は、肩関節の解剖学と神経学的視点から、この痛みのメカニズムを解説していきます。


1. 肩関節の構造と動き

肩関節(肩甲上腕関節)は、肩甲骨の関節窩上腕骨の骨頭で構成される、非常に可動性の高い関節です。挙上(腕を上にあげる動き)や外旋(腕を外側にひねる動き)には、以下の筋肉が関与します。

  • 棘上筋(きょくじょうきん)
  • 棘下筋(きょくかきん)
  • 小円筋(しょうえんきん)
  • 肩甲下筋(けんこうかきん)

これらは**ローテーターカフ(回旋筋腱板)**と呼ばれ、肩関節の安定性に欠かせません。


2. 痛みが起きやすい「肩〜上腕外側」の理由

✔️ 神経支配の観点:腋窩神経(えきかしんけい)の関与

肩関節周囲、特に上腕外側の痛みは、腋窩神経の支配領域と一致します。

腋窩神経は第5・6頚神経(C5・C6)から分岐し、三角筋小円筋を支配しながら、上腕外側に知覚枝を伸ばしています。

腋窩神経の知覚枝:上外側上腕皮神経 → 三角筋の外側〜上腕外側の皮膚感覚を支配

このため、**ローテーターカフの炎症や損傷、肩関節包の炎症(五十肩)**などによって腋窩神経が刺激されると、上腕外側に放散するような痛みが生じやすくなるのです。

さらに、最近の解剖学的研究では、腋窩神経が上腕三頭筋長頭にも分枝を送る例があることが報告されています(Staniek et al., 2014)。

従来、上腕三頭筋は橈骨神経支配とされてきましたが、一部例では長頭に対して腋窩神経が追加的に運動枝を送ることが確認されており、この領域の疼痛や違和感にも関連している可能性があります。

🧠 ポイント:腋窩神経は三角筋・小円筋に加え、上腕三頭筋長頭にも分枝することがある。これが、肩〜上腕後外側にかけての痛みに影響する可能性がある!

🧠 ポイント:肩のトラブル=肩の痛みだけとは限らず、神経の支配領域に痛みが放散することがある!

📌 エビデンス
Staniek A, et al. (2014). The axillary nerve as a donor for the reconstruction of axillary nerve lesions—an anatomical study.
→ 腋窩神経の上腕三頭筋長頭への分枝は、特に神経再建や臨床的感覚障害の説明において重要な知見とされています。


3. よくある病態とそのメカニズム

✅ ローテーターカフ損傷(棘上筋が特に多い)

棘上筋は、肩関節を外転(横にあげる)させる主な筋肉であり、腱が肩峰との間に挟まれやすい位置にあります。

長年の使用や外傷により腱板損傷や腱炎を起こすと、挙上時に痛みを生じやすくなります。

📌 エビデンス:Yamamoto et al. (2010) によると、MRIで確認された棘上筋腱板損傷のうち、自覚症状がない例も多く、疼痛は炎症や二次的な滑液包の刺激と関係している可能性が示唆されています。


✅ インピンジメント症候群

腕を挙げた際に、肩峰と上腕骨頭の間に腱板や滑液包が挟まる状態です。

繰り返しの摩擦によって炎症が起き、特に**挙上60〜120度付近で鋭い痛み(ペインフルアーク)**が出現します。

📌 エビデンス:Neer CS (1983) による古典的な提唱に基づき、肩峰下インピンジメントは肩関節痛の主な原因のひとつとして知られています。


✅ 五十肩(肩関節周囲炎)

40〜60代に多くみられる、肩関節の関節包の炎症・拘縮による運動制限と痛み

特に外旋制限と夜間痛が特徴で、腋窩神経や滑液包にも炎症が波及し、上腕外側の放散痛を引き起こすケースが多いです。

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4. 対処と予防のポイント

  • 安静だけではNG:肩関節は安静にしすぎると拘縮しやすく、痛みが長引く原因に。
  • 早期の可動域訓練・理学療法が効果的
  • **腱板を鍛える軽負荷運動(インナーマッスル訓練)**が再発予防に有効
  • 痛みの放散部位=病変部位とは限らないため、医療従事者による評価が重要


まとめ

肩関節の挙上や外旋で肩の外側〜上腕に痛みを感じる場合、
その原因は単なる筋肉痛ではなく、腱板損傷・炎症・神経刺激など、解剖学的に根拠のある現象です。

✅ 痛みがある部位だけでなく、「どの動作で」「どこまで挙げると」「どんな痛みか」など、動きと痛みのパターンを把握することが、早期改善への第一歩になります。


引用・参考文献

  • Neer CS. Impingement lesions. Clin Orthop Relat Res. 1983.
  • Yamamoto A, et al. "Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population." J Shoulder Elbow Surg. 2010.
  • Diederichsen LP, et al. “Functional aspects of shoulder anatomy relevant to rotator cuff injury and repair.” Orthop Clin North Am. 2010.

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