【専門家が解説】円背(後弯姿勢)に有効なリハビリとは?原因から改善エクササイズまで徹底解説
円背(えんぱい) とは、背中の丸まりが強くなり、胸椎の後弯が過度に増加した姿勢のことです。
高齢者だけでなく、デスクワーク中心の若年層でも増加しており、肩こり・腰痛・呼吸機能低下・歩行能力の低下 など、多くの不調の原因になります。
この記事では、リハビリ専門職(作業療法士)の視点から、
円背が生じる仕組み → 評価 → 改善のために本当に有効なリハビリ方法 を、エビデンスと臨床経験にもとづき詳しくまとめました。
1. 円背が起こる原因とメカニズム
◆ 原因① 胸椎の可動域低下(伸展制限)

胸椎は本来、軽度の後弯を保ちながら柔軟に動く構造ですが、長期的な前屈姿勢によって
伸展(反らす動き)が制限され、丸まったまま固定されやすい という特徴があります。
胸椎伸展が出ないと、姿勢を正す際に頸椎・腰椎が代償し、
ストレートネック・反り腰・肩のインピンジメント などを引き起こします。
◆ 原因② 肩甲帯の機能低下

円背姿勢では、肩甲骨が
- 外転
- 上方回旋不足
- 前傾
しやすくなります。
これにより僧帽筋下部・菱形筋・前鋸筋などの姿勢保持筋が弱化し、
さらに円背を助長する悪循環に陥ります。
◆ 原因③ 股関節・骨盤アライメントの崩れ

骨盤が後傾すると、
- 背中が丸まりやすい
- 頭部が前方突出する
- 呼吸が浅くなる
など、上半身のアライメントに大きく悪影響を及ぼします。
円背=背中だけの問題ではなく、全身姿勢の連動によって生じる複合的な現象 である点が重要です。
2. 円背のリハビリで重要な基本評価ポイント
◆ ① 胸椎伸展可動域
座位または四つ這いで、胸椎の伸展が可能かをチェックします。
胸椎が固い人の多くは、腰を反らせて代償しがちです。
◆ ② 肩甲帯の安定性と筋活動
特に以下の筋群を観察します:
- 僧帽筋下部
- 菱形筋
- 前鋸筋(外転の安定に必須)
- 広背筋(短縮により胸郭が引き下げられる)
◆ ③ 骨盤の前傾・後傾コントロール
骨盤がコントロールできないと、円背矯正も維持が困難です。
◆ ④ 体幹伸展筋の持久力
多裂筋・脊柱起立筋の耐久力低下は、長時間の姿勢保持を妨げます。
◆ ⑤ 呼吸機能(胸郭拡張)
円背では胸郭が硬くなり、
- 横隔膜の動き低下
- 呼吸が浅い
- 活力低下
につながるため、呼吸評価も必須です。
3. 円背改善のためのリハビリ(高齢者でもできる実践アプローチ)
円背のある高齢者には、
複雑な運動より「小さく動かす・ゆっくり動かす」 ことが効果的です。
ここでは、転倒リスクが低く、自宅でも安全に続けられるメニューを紹介します。

3-1. 胸椎まわし体操(座ったまま背中をやわらかく)
●やり方
- 椅子に浅めに座る
- 両手を軽く胸の前で組む(組めなければ太ももに置く)
- 背中を小さく「丸める → 伸ばす」をゆっくり繰り返す
- 10回 × 1〜2セット
●ポイント
- 首ではなく「背中の真ん中」を動かす意識
- 痛みが出るほど反らさなくてOK
- 可動域は小さくてよい
👉 胸椎が少しずつ柔らかくなり、円背改善の第一歩に。
3-2. 肩甲骨を寄せる・話す(丸まり肩を戻す)
●やり方
- 椅子に座り、肩の力を抜く
- 胸を軽く張る感じで「肩甲骨を後ろで寄せる」
- 力を抜いて戻す
- 10回 × 2セット
●ポイント
- 背中に力が入る感覚があればOK
- 肩がすくまないよう注意
- ゆっくり呼吸しながら
👉 肩の位置が整うと円背姿勢が自然に改善される。
3-3. 座ったまま骨盤前後ゆらし(後傾のクセをリセット)

●やり方
- 椅子に腰かける
- 骨盤を後ろに倒す(背中が少し丸まる)
- 次に前へ倒す(自然に背が伸びる)
- 10回 × 2セット
●ポイント
- 動きは「小さく」で十分
- 腰を反らせすぎない
- 痛みがある方向は避ける
👉 円背の根本である「骨盤後傾のクセ」を改善するやさしい体操。
3-4. やさしい胸ひらきストレッチ(猫背改善)
●やり方
- 椅子に座ったまま手を太ももの横に置く
- 胸を軽く開くようにして肩を後ろに引く
- 10秒キープ
- 5回程度
●ポイント
- 胸の前が軽く伸びる程度でOK
- 呼吸を止めないこと
- 背中を反りすぎない
👉 パソコン姿勢で硬くなった大胸筋をゆるめ、姿勢を整えやすくなる。
3-5. 深呼吸エクササイズ(呼吸 × 姿勢の連動改善)
●やり方
- 椅子に座って背を軽く伸ばす
- 鼻からゆっくり吸いながら胸を膨らませる
- 口からゆっくり吐く
- 5〜10回
●ポイント
- 肩を上げない(胸郭だけ動かす)
- 無理なくできる範囲で
- 吐く時間を長めにするとリラックス効果UP
👉 円背では胸郭が硬くなり呼吸が浅くなるため、姿勢改善に非常に効果的。
🍀 【高齢者向け難易度の低い自主トレの特徴】
- 「筋トレ」よりも ゆっくり動かす 体操が中心
- 一つの動きは 10回以内、負担が少ない
- 動かしやすい 座位中心
- 続ければ確実に姿勢改善へつながる
- 痛みや可動域の制限に配慮
4. 円背リハビリの臨床的ポイント(専門家向け)
◆ ① “胸郭”を中心に考える
円背は胸椎・肋骨・肩甲帯の複合体。
胸郭の柔軟性が改善しないまま筋トレだけ行っても効果が出にくい です。
◆ ② 骨盤アライメントの改善が最重要
骨盤が後傾している限り、胸椎伸展は出ません。
「骨盤 → 胸椎 → 頭部」
この順で整えることが大切。
◆ ③ 代償動作を許さない
頸椎伸展・腰椎過伸展は典型的代償。
“どこが動いているか”を常に観察する必要があります。
◆ ④ 呼吸とのリンクを外さない
胸郭が固いと姿勢筋が働きにくいため、
呼吸訓練は必須。
5. 在宅・高齢者に対しての指導ポイント
- 1日3〜5分の短時間でも「毎日」が大切
- 座位でできる胸椎伸展・骨盤運動は安全で継続しやすい
- 痛みのある動きは避け、可動域ギリギリまで行わない
- 「背筋を伸ばす」より、「胸をひらく」ほうが理解されやすい
リハビリは 負荷よりも習慣が重要 であり、
生活の中で姿勢を意識できるようになると改善スピードが大きく上がります。
6. まとめ:円背改善は「胸椎 × 肩甲帯 × 骨盤」の連動が鍵
円背は、
- 胸椎の硬さ
- 肩甲帯の筋力低下
- 骨盤後傾
- 呼吸機能低下
が絡み合って起こるため、
部分的ではなく全身をみるアプローチ が効果的です。
この記事で紹介したエクササイズは、
臨床でも在宅でも実践しやすく、円背改善に非常に有効です。
継続すれば、
- 姿勢改善
- 肩こり・腰痛の軽減
- 歩行能力向上
- 呼吸の改善
など、多くのメリットが期待できます






