STEF(簡易上肢機能検査)の10項目を徹底解説|各テストで何を評価するか作業療法士が詳しく説明

STEF(Simple Test for Evaluating Hand Function:簡易上肢機能検査)は、金子ら(1974)によって開発された日本発の上肢機能評価法です。大きさ・形・重さ・素材の異なる10種類の物品を操作し、その所要時間を得点化することで、上肢の巧緻動作能力を客観的・定量的に把握できます。

本記事では、STEFの10サブテストそれぞれについて、使用物品・動作課題・評価しているもの・臨床的意義を作業療法士の視点から詳しく解説します。

📌 この記事でわかること
  • STEFの10サブテスト各項目で何を評価しているか
  • 各テストで求められる把持パターン・動作の特徴
  • 臨床でどう解釈・活用するか

STEFの基本情報

項目 内容
正式名称 Simple Test for Evaluating Hand Function(STEF)
日本語名 簡易上肢機能検査(巧緻動作能力検査)
開発者 金子ら(1974)
サブテスト数 10種類
採点 各テストの所要時間→プロフィール表で1〜10点に換算、左右各50点・合計100点満点
所要時間 約20〜30分(左右実施含む)
使用器具 標準化キット SOT-3000(酒井医療株式会社)

STEFが「評価しているもの」の本質

STEFの核心は「動作速度」の定量化です。ただし、単純な反応速度ではなく、以下の機能が統合されて初めて速く正確な操作が成立します。

  • リーチ動作:肩〜肘の協調、近位上肢のコントロール
  • 把持・ピンチ:物品サイズ・形状・素材に応じた手指の使い分け
  • 移動・配置:視空間認知、手眼協調、前腕回内外
  • 離す(リリース):精度の高いリリースコントロール

各サブテストはこれらの要素を異なる比重で要求するよう設計されており、得点プロフィールのパターンを読むことが臨床判断の鍵になります。

10サブテストの詳細解説

① 大球(大きなボール)

物品 直径約6.5cmの木製球(大)
課題 検査板手前の枠内に3個配置された大球を、反対側の枠へ移動する
移動方向(右手) 手前→反対側(左)

主に評価しているもの:

  • パワーグリップ(把握握り):手全体で大きな物体を包み込む能力
  • 近位上肢(肩・肘)の粗大運動コントロール
  • 大きな物体へのリーチ精度

臨床的意義:脳卒中後の上肢麻痺では、随意性が比較的早期に回復した段階でも大球操作は困難になることがあります。スムーズに実施できる場合、粗大な把握機能はある程度保持されていると判断できます。筋力低下・協調障害・痙縮による手指屈曲拘縮などが速度に影響します。

② 中球(中くらいのボール)

物品 直径約4.5cmの木製球(中)
課題 手前中央に左右3個ずつ(計6個)配置された中球を、右手で右枠・左手で左枠へ移動する
移動方向(右手) 手前中央→右奥枠

主に評価しているもの:

  • パワーグリップと精密把持の中間:中程度の物体への適切な把持力調整
  • 前腕の回内外を伴う移動動作
  • 複数物体を連続して操作する反復性・持続性

臨床的意義:大球よりサイズが小さくなるため、手指の分離運動・把持力の調整がより重要になります。大球は可能でも中球で速度が著しく低下する場合、手内筋の機能低下や感覚障害による把持力調整の困難が示唆されます。

③ 小球(小さなボール)

物品 直径約2.5cmの木製球(小)
課題 遠位側の穴(5箇所)に配置された小球を、手前側の穴へ移動する
移動方向(右手) 遠位→手前(縦方向)

主に評価しているもの:

  • 精密ピンチ(三指つまみ・側腹つまみ):小さな球体への繊細な把持
  • 手指の分離運動(特に母指・示指・中指)
  • 小物操作における手眼協調性

臨床的意義:3種の球のなかで最も精密な指機能を要求します。小球の得点が大球・中球に比べて著しく低い場合、粗大把握は保たれているものの精密つまみの障害が示唆されます。感覚障害(特に識別覚の低下)がある場合、視覚的な補償でも限界が生じやすい課題です。

④ 大立方体(大きな四角形のブロック)

物品 一辺約5cmの木製立方体(大)
課題 検査板左側に配置された大立方体を右枠へ移動する(右手の場合)
移動方向(右手) 左側→右枠

主に評価しているもの:

  • 角のある物体へのパワーグリップ:球と異なり角部・稜線への指の適応が必要
  • 広い作業域をカバーする肩関節の可動性と筋力
  • 物体の形状変化に対する手の適応(把持パターンの柔軟性)

臨床的意義:大球と比べ物体形状への手の適応能力が加わります。立方体の角・稜線を適切にホールドするためには、手掌の広い接触面と指の適切な配置が求められます。肩関節の可動域制限がある場合、移動距離が長いこのテストで特に影響が出やすくなります。

⑤ 中立方体(中くらいの四角形のブロック)

物品 一辺約3cmの木製立方体(中)
課題 複数の中立方体を指定の枠へ移動する

主に評価しているもの:

  • 精密把握と粗大把握の移行帯:サイズが中程度のため、個人差のある把持戦略が観察される
  • 指腹と母指の対立による安定した把持
  • 連続した操作課題での協調性

臨床的意義:大立方体より小さいため手指の精緻なコントロールが必要になりますが、小立方体ほど精密ではありません。中立方体での低下は、手内筋の機能と感覚フィードバックの両方に問題がある可能性を示唆します。短縮版STEFでも採用されており(主成分分析による選出)、評価感度の高い項目の一つです。

⑥ 小立方体(小さな四角形のブロック)

物品 一辺約1.5cmの木製立方体(小)
課題 複数の小立方体を指定の枠へ移動する

主に評価しているもの:

  • 精密つまみ(ピンチ)の高度な巧緻性:小さくて角のある物体は最も難易度が高い
  • 母指・示指・中指の分離した精密動作
  • 小物をつまむ際の視覚と触覚の統合

臨床的意義:10項目中でも特に精密巧緻性を鋭敏に反映する課題です。小立方体は球体と違い転がらないため把持できても、角に対して正しく指を置かなければ落下します。識別覚・運動覚・手指の分離運動の複合的な評価として機能します。短縮版STEFにも必ず含まれる中核項目です。

⑦ 木円板(木製の丸い板)

物品 直径約10cm、厚さ約1cmの木製円板
課題 右手前に置かれた木円板を左手前へ移動する(右手の場合)
移動方向(右手) 右手前→左手前(横方向)

主に評価しているもの:

  • 薄い物体へのピンチ・側腹つまみ:板状で薄いため、指先の側面や腹面を使って挟む必要がある
  • 前腕の回内外動作:横方向への移動に回内外が加わる
  • 手首〜前腕の協調的な動き

臨床的意義:球体・立方体と異なり薄い板状であるため、把持難易度が上がります。薄い物体をつまむには母指と他指の対立機能が不可欠であり、母指対立筋・短母指屈筋の機能低下が顕著に影響します。また横方向への移動は前腕回内外を伴うため、前腕・手首の複合的な協調性を評価できます。

⑧ 金属板(鉄製の薄い板)

物品 直径約10cm、厚さ約0.3mmの金属(鉄)製薄板
課題 木円板と同様の課題を金属板で行う

主に評価しているもの:

  • 素材変化への適応(木→金属):重さ・表面摩擦・熱感覚が異なる
  • 金属の重量に対する把持力の調整(木円板より重い)
  • 感覚フィードバックの統合:金属特有の温度感・滑り感への対応

臨床的意義:木円板とほぼ同形状・同サイズですが、素材が金属に変わることで評価次元が加わります。重量増加による筋力要求の上昇、金属表面の滑りやすさ、温度感覚の違いなどが加わります。表在感覚(温痛覚・触覚)の障害がある場合、木円板より金属板で速度が著しく低下することがあり、素材感覚の適応を評価する上で重要な比較対象となります。

⑨ ピン(棒状のピン)

物品 直径約0.8cm・長さ約6cmの円柱状ピン(複数本)
課題 手前側の穴に刺さったピンを、遠位側の穴へ順番に差し替える(5本)
移動方向(右手) 手前→遠位(縦方向)

主に評価しているもの:

  • 精密ピンチ+穴への挿入(精密な配置):つまむだけでなく穴に正確に「差す」動作が必要
  • 手眼協調性と視空間的精度の高い要求
  • 前腕・手首・手指の三次元的協調(ピンを持ちながら垂直に挿入する)

臨床的意義:STEFの中で最も精密な手眼協調性と巧緻操作を要求する課題の一つです。ピンを穴に挿入する動作は、ボタン操作・鍵の操作・書字補助具の操作など多くのADL動作の基礎となります。視空間認知の障害(半側空間無視など)や失調、精密つまみの障害がある場合に顕著な低下が見られます。短縮版STEFでも採用されており、評価感度の高い中核項目です。

⑩ 輪(リング状の物体)

物品 外径約5cm、内径約3cmの木製リング(複数個)
課題 縦棒(ペグ)に刺さったリングを抜き取り、別のペグに通す操作を繰り返す

主に評価しているもの:

  • リングへのつまみと通す動作の複合:つまみ・移動・穴通し・離すという一連の流れ
  • 輪っか形状への把持適応(側面をつまむ、または指を穴に通す)
  • 前腕の回内外を伴う操作(ペグへの通しでは手首の回旋が必要)
  • 「離す(リリース)」の精度:正確にペグ上に落とす必要がある

臨床的意義:リングの操作は「つかむ→移動する→通す→離す」という一連の連続動作を評価します。特に「通す」動作には対象物(ペグ)への精密な位置合わせが必要であり、視覚的な誘導と手指の協調的なリリースの能力が求められます。衣服の着脱(ボタン・ホック)に通じる動作要素を含んでおり、ADL評価との関連も深い課題です。

得点プロフィールの読み方:臨床での解釈ポイント

STEFの強みは総得点だけでなく、10項目のプロフィールパターンを読むことにあります。

プロフィールパターン 考えられる要因
大球〇・小球×(粗大↑精密↓) 手内筋機能低下、精密つまみの障害、感覚障害
球体〇・立方体× 形状適応の困難(感覚識別障害、手の柔軟性低下)
木円板〇・金属板× 表在感覚(温痛覚・触覚)障害、把持力調整の困難
ピン・輪が著しく低下 手眼協調障害、視空間認知障害、失調、精密操作の困難
全体的に低下・左右差大 片麻痺による随意運動障害(Brunnstrom StageⅣ〜Ⅴ相当で実施可能域)
⚠️ 注意点
STEFは「動作速度」の評価であり、動作の質(筋緊張・代償動作・疲労)は得点に直接反映されません。検査者が動作の観察・記述を合わせて行うことが不可欠です。また、認知障害・失行・指示理解困難な対象者では適正な評価が困難になります。

各サブテストとADL動作との対応

サブテスト 関連するADL動作の例
大球・大立方体 コップ・茶碗・瓶を持つ、物の持ち運び
中球・中立方体 スプーン・フォークの把持、ドアノブを握る
小球・小立方体 薬を取る、小さな部品の操作、ボタンはめ
木円板・金属板 皿・CDケースを持つ、薄い物を取り出す(財布から硬貨など)
ピン 鍵の操作、箸の使用、書字、ヘアピン・安全ピンの操作
ボタン・ファスナー操作、指輪の着脱、洗濯バサミ操作

まとめ

STEFの10サブテストは、単なる「速さの測定」ではなく、把持の種類(パワーグリップ〜精密ピンチ)・物品の形状・素材・移動方向・精密配置という多次元の要素を体系的に組み合わせて設計されています。

各項目の評価内容を理解した上でプロフィールを読むことで、

  • どの把持パターンに問題があるか
  • 障害の原因として感覚・運動・認知のどれが主因か
  • ADLのどの動作への影響が大きいか

を論理的に推論することができます。作業療法士として「時間を測る」だけでなく、動作の質を同時に観察・記録することで、STEFはより豊かな臨床情報をもたらします。

✅ 在宅リハビリへの応用ポイント
訪問リハビリの現場では標準化キット(SOT-3000)の持参が難しい場合もあります。そのような場合でも、STEFの各サブテストの把持パターン・動作課題の構造を理解しておくことで、日常物品を代用した定性的な上肢機能観察に活かすことができます。また、利用者への説明・目標共有の際にもSTEFの項目を参照することで、具体的な動作目標の設定が可能になります。

参考文献

  1. 金子翼ら(1974).簡易上肢機能検査法の開発.作業療法ジャーナル.
  2. 内山靖ら(2003).STEFで使用する検査物品と検査板上の運動方向について(一部改変).
  3. 理学療法科学 31(4):585–590,2016.車椅子座位姿勢における上肢機能評価に用いる簡易上肢機能検査短縮版の開発.
  4. 神経治療 34(1):43,2017.簡易上肢機能検査法(STEF)を用いたALS患者の上肢機能評価.

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homereha

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