このような悩みはありませんか?
- 「座っているだけで体が傾く」
- 「歩くとふらつく」
- 「リハビリで『体幹が弱いですね』と言われた」
これらはすべて、脳卒中後の体幹機能低下が関係しているかもしれません。
「体幹が弱い」と聞くと筋力の問題をイメージしがちですが、実際には筋力低下よりも、「姿勢を自動で調整する神経の働き」が障害されていることが大きな原因です。
この記事では、脳卒中後遺症における体幹機能低下の原因・症状・リハビリのアプローチを、神経の仕組みからわかりやすく解説します。
📋 目次
そもそも体幹とは?
体幹とは、頭・手足を除いた胴体部分のことです。具体的には以下の筋群が含まれます。
| 部位 | 主な筋肉 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 腹部 | 腹直筋・腹横筋・内外腹斜筋 | 前方・側方の安定、腹腔内圧 |
| 背部 | 脊柱起立筋・多裂筋 | 脊柱の伸展・安定 |
| 横腹 | 腰方形筋・腸腰筋 | 側方安定・股関節屈曲 |
| 骨盤底 | 骨盤底筋群 | 体幹深部安定・姿勢の土台 |
| 横隔膜 | 横隔膜 | 呼吸・体幹内圧調整 |
手足が柱や窓だとすると、体幹は家の土台に相当します。土台がグラグラだと、どんなに手足を動かそうとしても安定しません。体幹の評価なしに上肢・下肢リハビリを語ることはできません。
なぜ脳卒中で体幹が弱くなるのか?〜神経の仕組みから〜
脳卒中後の体幹機能低下は、筋力だけの問題ではありません。以下のような複数の要因が重なって起こります。
- 脳から筋肉への指令障害
- 姿勢制御の乱れ
- 感覚障害
- 廃用や疼痛
特に重要なのは、「姿勢を自動で調整する神経の働き」が障害されることです。主に以下の4つの神経系が関与しています。
① 錐体路(Corticospinal tract)〜意識して動かす神経〜
錐体路(Corticospinal tract)は「動こう」と意識した随意運動を直接筋肉へ伝えるルートです。手を伸ばす・足を上げる・起き上がるといった動作を担います。
脳卒中でこのルートが損傷すると、麻痺・筋力低下・動作のぎこちなさが起こります。体幹では特に、起き上がりや寝返りなど意図的な体幹運動が難しくなります。
手指の細かい動きは錐体路依存が強いですが、体幹は「意識して動かす」より無意識に安定させることが重要です。この無意識の制御を担うのが錐体外路系です。
② 錐体外路(Extrapyramidal system)〜姿勢と自動調整の神経〜
錐体外路(Extrapyramidal system)は、筋緊張調整・姿勢保持・バランス反応・自動的な重心調整を担うシステムです。錐体路が「運転手」なら、錐体外路は「車体の自動制御システム」と考えるとイメージしやすいでしょう。
体幹に特に重要な錐体外路系の経路は以下の3つです。
| 神経路 | 主な機能 | 障害時の症状 |
|---|---|---|
| 網様体脊髄路 (Reticulospinal tract) |
姿勢反射・筋緊張調整 抗重力筋活動・立位安定性 |
座位で崩れやすい 「体幹が抜ける」感覚 |
| 前庭脊髄路 (Vestibulospinal tract) |
頭部位置や前庭感覚に応じて 身体の平衡を保つ |
座位で傾く 方向転換で崩れる |
| 赤核脊髄路 (Rubrospinal tract) |
ヒトでは運動制御への寄与は 限定的と考えられている |
(影響は限定的) |
網様体脊髄路は脳卒中後の体幹リハビリで特に注目される経路です。損傷側だけでなく、非損傷側からの制御も受けるため、適切な荷重練習と感覚入力が回復の鍵になります。
③ 小脳(Cerebellum)〜動きの誤差修正装置〜
小脳は「動きの誤差修正装置」です。体幹においてはバランス修正・タイミング調整・協調性を担います。小脳が障害されると体幹失調(Truncal ataxia)が起こります。
| 特徴 | 具体的な様子 |
|---|---|
| 座位での揺れ | 安静座位でも体幹が揺れ続ける |
| 方向の定まらない崩れ | どちらかに一定方向に傾くのではなく揺れる |
| 動きの過大 | 修正しようとするとオーバーシュートする |
④ 大脳基底核(Basal ganglia)〜運動の開始と大きさ〜
大脳基底核は運動の開始と大きさを調整します。ここが障害されると動き始めの遅さ・姿勢変換の困難さ・固縮が生じます。パーキンソン病で典型的に見られますが、脳卒中でも基底核梗塞では同様の症状が現れることがあります。
脳卒中後の体幹機能低下は以下が複合して起こります。
・錐体路 → 動かせない
・網様体脊髄路 → 支えられない
・前庭脊髄路 → バランスが取れない
・小脳 → 修正できない
・基底核 → 滑らかに動けない
脳卒中後の「体幹が弱い」3つの正体
神経系の障害を踏まえると、臨床で「体幹が弱い」と表現される状態は大きく3つに整理できます。
① 体幹コントロール障害(姿勢を保つ力が落ちる)
座る・立つ・バランスを取るために体幹は常に細かく働いています。この調整能力が落ちると、座っていて傾く・立っていてふらつく・麻痺側へ倒れやすいという状態になります。医学的には体幹コントロール障害と呼ばれます。
② Body Schema の障害(身体の真ん中がわからなくなる)
脳卒中では「自分の身体が真ん中にある感覚」がズレることがあります(Body schema の障害)。例えば、実際には右に傾いているのに本人は真っ直ぐだと感じている状態です。
Body schema の障害がある場合、「もっと左に!」と言語的に指示しても修正が難しいことがあります。感覚フィードバックを活用したアプローチが必要です。
③ 麻痺側への荷重困難
脳卒中後は、麻痺側への荷重が苦手になります。原因は筋出力低下・感覚障害・恐怖心・バランス低下などが複合します。すると体幹が健側へ逃げやすくなり、非対称な座位・立位の偏り・歩行の崩れにつながります。
| 原因 | 体幹への影響 |
|---|---|
| 筋出力低下 | 麻痺側の支持性低下 |
| 感覚障害 | 麻痺側の位置覚・圧覚が弱く荷重を感じにくい |
| 恐怖心 | 麻痺側への重心移動を無意識に回避 |
| バランス低下 | 前庭・固有感覚フィードバックの不全 |
体幹機能低下で起こる症状
- 座っていられない:食事中・着替え中に傾く、疲れが早い
- 立ち上がりが不安定:立ち上がる瞬間に前後左右へ崩れやすい
- 歩くとふらつく:歩行は片足立ちの連続。体幹が不安定だと脚より先に身体が崩れる
- 手が使いにくい:体幹が安定しないと腕は使いにくくなる(Proximal stability・近位安定性)
「土台が安定して初めて手先が動く」という原則です。上肢機能が思うように改善しない場合、体幹の安定性を再評価することが重要です。体幹コントロール改善が上肢機能改善に先行するケースも多くあります。
リハビリでは何をする?
脳卒中の体幹リハビリは単純な腹筋運動ではありません。重要なのは「動きの中で体幹を使うこと」です。
① 座位バランス練習
基本中の基本です。両手を前に伸ばす・横に手を伸ばす・物を取るといった動作の中で「倒れない」経験を積み重ねます。静的から動的バランスへと段階的に難易度を上げていきます。
② 荷重練習(麻痺側への体重移動)
麻痺側へ意識的に体重を乗せる練習です。左右差の改善・感覚入力の増加・支持性向上が期待できます。
荷重練習は感覚入力と神経可塑性の観点から非常に有効です。麻痺側への荷重は固有感覚・圧覚・体性感覚を同時に刺激し、神経回路の再構築を促します。詳細は「感覚入力が麻痺改善に重要な理由」の記事もご参照ください。
③ 寝返り・起き上がり練習
寝返りや起き上がりは体幹回旋・重心移動の宝庫です。日常生活動作そのものであるため、反復することで実用性が高まります。また、寝返りから起き上がりの連続動作は神経可塑性を促す上でも有効な課題です。
④ 呼吸を整える(横隔膜アプローチ)
横隔膜(Diaphragm)は体幹深部安定に関わる重要な筋です。呼吸が浅くなると体幹の安定性も落ちやすくなります。腹式呼吸の指導・呼吸介助・呼吸と動作の協調も体幹リハビリの一部です。
| アプローチ | 主なターゲット | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 座位バランス練習 | 体幹コントロール・前庭系 | 姿勢保持能力の向上 |
| 荷重練習 | 感覚入力・支持性 | 左右対称性改善・神経可塑性 |
| 寝返り・起き上がり | 錐体路・体幹回旋 | ADL実用性向上 |
| 呼吸練習 | 横隔膜・体幹深部 | 体幹内圧安定・持久性改善 |
よくある誤解:「腹筋を鍛えればいい」は半分正解
腹筋運動が悪いわけではありません。ただ脳卒中では、筋力より先に「使い方」を再学習することが大事です。
脳卒中後の体幹リハビリには順序があります。
①姿勢を整える → ②感覚を入れる → ③荷重する → ④動く
この流れを無視して筋力強化を先行させると、誤った運動パターンを強化してしまうリスクがあります。
よくある質問(FAQ)
📝 まとめ
- 脳卒中後の「体幹が弱い」は、単純な筋力低下ではなく複数の神経系の障害が複合した状態
- 錐体路・錐体外路(網様体脊髄路・前庭脊髄路)・小脳・基底核がそれぞれ体幹機能に関わる
- 臨床的には①体幹コントロール障害 ②Body Schema の障害 ③荷重困難 の3つが主な問題
- 体幹が不安定だと、座る・立つ・歩く・手を使うすべてに影響が出る
- リハビリは「腹筋強化」ではなく、神経系の再学習(感覚入力・荷重・動作の反復)が軸
- 手足だけでなく体幹を評価・アプローチすることが脳卒中回復の鍵







