半側空間無視とは?病態・症状・評価方法をわかりやすく解説
脳卒中後にみられる高次脳機能障害のひとつに半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect:USN)があります。
健常者では、左右の空間にほぼ均等に注意を向けることができます。しかし脳卒中などによって脳が損傷すると、片側空間への注意が著しく低下し、その側にある物や人に気づきにくくなります。
💡 半側空間無視の代表的な症状
- 左側の食事だけ食べ残す
- 左側から呼ばれても反応しない
- 左側の壁や物にぶつかる
- 左半身の更衣や整容を忘れる
特に右半球損傷後に多くみられ、リハビリ場面では非常に重要な障害です。今回は、半側空間無視の病態・症状・評価方法について解説します。
📋 目次
「空間」の種類を理解する
半側空間無視を理解するためには、「空間」の種類を把握することが重要です。
① 近位空間と遠位空間
空間は大きく近位空間(手が届く範囲)と遠位空間(歩いて移動する距離)に分けられます。

② 身体空間(個人空間)
身体そのものも「空間」の一つであり、身体空間(個人空間)と呼ばれます。半側空間無視では「身体の左側」を認識できないために以下の症状が現れます。
- 左手足を置き去りにして寝返る
- 左半分だけ髭を剃らない
- 左腕を服に通し忘れる
③ 物体中心空間
物体中心空間とは、物体そのものの左右を基準とした空間です。時計の左半分が読めない、文字の左側を見落とすなどの症状がみられ、物体の向きを変えても同じ側を見落とす特徴があります。
半側空間無視の病態
定義
大脳半球病巣と反対側の刺激に対して、発見・報告・反応・定位する能力が障害される病態(Kenneth M. Heilmanら)
重要なのは「見えていないわけではない」ことです。注意が向かないことが本質です。
右半球損傷に多い理由
半側空間無視は右半球損傷後に多くみられます。
| 損傷半球 | 無視側 | 発症率(報告値) |
|---|---|---|
| 右半球損傷 | 左空間 | 約30〜70% |
| 左半球損傷 | 右空間 | 約10〜30% |
半盲(Hemianopia)との違い

病巣部位
空間注意ネットワーク
Marcel Mesulamは、右半球が左右両側への注意配分に大きく関与すると提唱しました。空間注意は単一の脳部位ではなく、複数領域のネットワークで支えられています。
図:空間注意ネットワーク(Mesulam, 1981を改変)
半側空間無視の種類

症状
① 眼球・頭部の右偏位
重症例では頭が右を向いたまま、視線が右に固定されることがあります。
頭部・視線が右に偏位する(左空間への自発的な定位が減少)
② 移動時の障害
- 左側にぶつかる
- 左の曲がり角を見落とす
- 歩くと右へ偏る
- 重度では円を描くように歩く
左側への注意が低下するため、移動時に物や人にぶつかりやすい
③ 食事
左側の食事を残します。重度では各皿の左半分も残す「対象中心性無視」がみられます。
④ 更衣・整容
💡 更衣・整容での具体的な症状
- 左袖を通さない
- 左半分だけ髭を剃らない
- 左側だけ歯を磨かない
- 左の靴下・靴を履かない
⑤ 病識の低下
半側空間無視では本人に自覚が乏しいことが多く、これが転倒・転落リスクを高めます。「なぜ食事が残るのか分からない」「ぶつかった理由が分からない」という状態です。
消去現象(Extinction)
半側空間無視と類似した症状として消去現象(Extinction)があります。
| 刺激の与え方 | 反応 |
|---|---|
| 右だけ刺激 | 気づける |
| 左だけ刺激 | 気づける |
| 両側同時刺激 | 左だけ見落とす |
⚠️ 鑑別のポイント
消去現象は単独刺激では気づけるのに、両側同時刺激で一方を見落とす現象です。半側空間無視より軽度の注意障害として位置づけられますが、日常生活では転倒リスクとなりえます。BITなどの机上評価に加え、両側同時刺激による検査も組み合わせることが重要です。
評価方法
BIT(行動性無視検査)
半側空間無視の標準的な机上評価です。通常検査と行動検査から構成されます。
| 下位検査 | 内容 | カットオフ(通常検査) |
|---|---|---|
| 線分二等分試験 | 線の中点にマークを付ける | 各線±75%以内 |
| 文字抹消試験 | ランダムに並んだ文字の中から指定文字を消す | 34/40以上 |
| 星抹消試験 | 散乱した星を全て消す | 54/54以上 |
| 模写試験 | 星・鳩・立方体を模写する | 各4点 |
| 線分抹消試験 | 用紙上の線を全て消す | 36/36以上 |
| 描画試験 | 時計・人物・蝶を描く | 各4点 |
線分二等分試験
線分二等分試験:左半側空間無視では中央より右寄りにマークが付く
抹消試験
抹消試験:左側の抹消漏れが多くなる(右側に偏って消される)
模写試験
模写試験:左半分が欠けた模写になる
時計描画
時計描画:数字が右半分に集中する、または左側が空白になる
CBS(Catherine Bergego Scale)日本語版
机上検査では見逃されやすいADL場面での無視を評価できる重要な尺度です。観察式・自記式の両方があります。
Catherine Bergego Scale(CBS)日本語版(大島ら改変)
💡 CBS の評価項目(各0〜3点)
- 左側の整容を忘れる
- 左側の着衣困難
- 左にある料理を食べ忘れる
- 左側の歯を磨き忘れる
- 左側への注視が困難
- 左上下肢への認識が困難
- 左への聴性注意が困難
- 移動時の左への衝突
- 左側空間見当識が困難
- 左側の身のまわりのものを探せない
| 評価法 | 特徴 | 適応 |
|---|---|---|
| BIT(通常検査) | 標準化された机上評価・感度が高い | 急性期〜回復期・スクリーニング |
| BIT(行動検査) | 日常行動に近い課題(地図・電話など) | 回復期〜生活期 |
| CBS | ADL場面での実際の無視を評価 | 回復期〜生活期・訪問場面 |
予後
⚠️ 予後不良因子
- 重度の無視(BIT著明低下)
- 覚醒低下の合併
- 病識の低下
- 注意障害の合併
- 失行の合併
半側空間無視が強いほど、ADL獲得・歩行自立に影響しやすいとされています。特に病識の低下は転倒リスクに直結するため、早期から慎重なリスク管理が求められます。
まとめ
📌 重要ポイント
- 半側空間無視は「見えない」ではなく「注意が向かない」空間性注意障害
- 右半球損傷後に多く(30〜70%)、左空間への無視が典型
- 半盲との鑑別が重要(視野検査と空間注意評価を併用)
- 食事・更衣・移動など幅広いADLに影響する
- 机上検査(BIT)だけでなく生活場面の観察(CBS)が不可欠
- 病識の低下が転倒リスクを高める
机上検査が正常でも生活場面で見落とされることが多いため、OT・PTは評価のタイミングと場面設定に十分配慮する必要があります。次回は、半側空間無視に対するリハビリ介入方法について解説します。















